東証プライム上場のダブル・スコープの株価が、ここしばらく上昇しています。
(ここ2日程は足踏みしていますが)
これってどんな会社か?
なんで株価が上がっているのか?
財務状況はどうなのか?
調べてみました。
(1) 会社概要;
同社はリチウムイオン電池(LiB)などに使われる部材「セパレータ」の
メーカーです。
「セパレータって何?」という方は、下の記事を参照下さい。
セパレータの世界最大手は中国のセムコープ(傘下に上海エナジー)で、
2位、3位には日本の旭化成・東レが名を連ねています。
世界シェアは資料によって数字が異なり正確には判らないのですが、
ダブル・スコープ(以下WScope)は大体4〜5%くらいのシェアで
業界第6位前後という感じの様です。
セパレータの最大の用途はLiB向けで、その業界の大きな特徴は2つ;
① 売り先がLiBメーカーに限られてる。
② 従来はスマホやPCなど電子製品向けの小さなものが主流だったが、
EVの普及に合わせて車載用の大きなものが急速に伸びている。
1台のEVに使用されるセパレータの量はスマホ 8千〜1万台分に
相当すると言われており、車載用は規模が圧倒的、かつ数も急増中。
一方で自動車メーカーとLiBメーカーとは契約が固定化しており
新規参入は難しい。
つまり、セパレータメーカーが成長していく鍵は;
「自動車メーカーを掴んでいるLiBメーカーに食い込む事」
WScopeはどうか?
① 2021年売上の87.5%をSamsung SDIグループに依存。
② 2021年売上の50.7%が車載用。
Samsung SDIはフォルクスワーゲン、BMW、ボルボ、クライスラーなどに
LiBを供給している模様。
また、Samsung SDIは欧州ではハンガリーにLiBの工場を持っており、
WScopeがハンガリー向けにも売上があるのはSamsung SDIの
ハンガリー工場向けだと推察されます。
Samsung SDIとはがっちりと手を組めているようです。
上述の自動車メーカー4社はSamsung SDI以外からもLiBを調達しています。
従い、WScopeが収益を上げていくには
① 上記4社がEVを沢山売る。
②それらEV用のLiBとしてSamsung SDI製が多く採用される。
③ Samsung SDIのLiBのセパレータとしてWScope製が採用され続ける。
という事が重要だと思われます。
今般、WScopeがハンガリーに工場進出を決めた最大の要因は、
Samsung SDIから「出て来い!さもなくば他から買うよ」と言われたんじゃ
ないかと推察します(個人の勝手な想像です)。
WScopeの工場は韓国に2カ所あり、各々別会社化しています。
① WSK; 100%子会社。2005年WScope設立時に同時に設立。
スマホ/PC用が主流。
② WCP; WScope持分は49.7%で50%を切っているが連結子会社。
2016年設立。車載用が主流。
(2) 株価;
まずは月足;
2015から2016にかけ急上昇、2016年5月には最高値 3,675に
達したがそこから反落、以後は下降トレンド入り。
2020年4月に262円で底を打ち、以後は緩かに上昇し始めたが、
この6月に急上昇。
急上昇の要因を日足で見てみましょう;
4つの要因で4段ロケットの様に上昇した模様です。
① 2022年12月期第1四半期 決算発表
→ 中身は後述します。
② パナソニックが「LiB生産能力を2028年には3〜4倍に」と発表。
→ WScopeもLiB関連としての連想で買われた模様。
③ WCPがハンガリーへの工場進出を発表。
④ WCPが韓国での上場承認取得。
現時点(6月29日取引時間中)でのPERは 87。
(3) 2022年12月期(以下「当期」)、第1四半期決算;
(a) 当期決算; 大幅な増収増益。
売上は前年比 46%増、営業利益は 2.7倍と大幅な増収増益。
需要増に伴い工場がフル稼働で好調。
両工場共に新規ライン増設を準備中。
四半期毎の推移を見ても、売上は順調に伸びている。
(b) 安全性; まあ問題ないが、少し弱め。
流動比率は171%で一般的に「余裕あり」と言われる200%には届かないが
「危ない」と言われる100%は大きく上回っている。
長期適合比率(固定資産が安定した資金で賄えているかを示す指標で
100%以下が望ましい)が136%と高く、何か問題が起きた場合に
資金繰りが悪化する心配はある。
売掛金回収期間は3.3ヶ月と常識的な範囲内だが、仕入債務支払期間が
0.7ヶ月と短く、売上が急増した場合は「売上代金は入ってこないのに
仕入代金の支払いをどんどんせねばならない」という具合に資金繰り悪化を
招きかねない構図になっている。
在庫期間は2.8ヶ月で常識的な範囲内。
(c) 収益性; 低い。
売上総利益率は前期は16%と低いが、当期は10%と更に低い。
営業利益率も前期は6%、当期は5%と低い。
ROEの年換算値も3%と低い。
前々期は売上総損益、営業損益、経常損益、最終損益、全て赤字。
(d) 成長性: 良好
前期の売上は前々期比62%増、当期もQ1は46%増、通期見通しは27%増と
順調な成長を見込んでいる。
世界的なEV市場の伸びに合わせ、当社も順調に成長すると期待される。
2018〜2020年は営業赤字だったが、その主な要因は以下;
・2018/2019;主に車載用製品の設備増強、それによる減価償却費増や
人件費増が負担となった。
・2020; コロナによる稼働率低下。
2018−2019年と車載用生産キャパを増やす為の先行投資により
赤字を重ねた、2020年には工場の新ラインも稼働し、
「さあ儲けるぞ!」というステージ入ったと思ったらコロナにやられた。
やっとコロナも落ち着きだし、これから回収!という感じでしょうか。
総括;
① 株価は以下を反映して上昇中;
a) 前期に黒字化し、当期も順調そう。
b) EV普及に合わせ、当社売上も成長が期待される。
c) WCPの上場により資金調達による規模拡大が期待できる。
② しかしながら、以下は留意しておくべき;
a) 販売をSamsung SDIに依存し過ぎ。
WScopeは上場企業で決算を開示しており、Samsung SDIは
自分達との取引で幾ら設けているか類推可能。
→ WScopeの利益が膨らめば、Samsung SDIは値段を叩きにくる可能性大。
→ 従いWScopeの利益はどこかで頭打ちになるかもしれない。
b) WScopeはWCP上場後も連結子会社として維持する意向。
今現在でも50%を切っており、ここから株式を売るとは考え難い。
→ 子会社を上場しても株を売れず売却益は取れないかも。
これらの点も勘案の上、今の株価/PERが高いか低いか検討要、
と個人的には思います。
以上です。
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尚、この財務分析・評価は筆者個人の考え方に基づいて行ったもので、
別の見方をされる方もおられるかもしれません。
また、これはあくまで決算期末日時点での状況であり、
それ以後は状況が変わっていく可能性もあります。
さらに、そもそも株価はその企業の財務内容以外の様々な要因に
大きく影響される為、財務諸表からその企業が高く評価できたとしても
それで株価が上がるとは限りません。
また、ここでの評価は、投資を推奨するものではありません。
投資は自己責任でお願い致します。
これらの点を十分ご留意お願いします。