収穫に、
泊まる。

旅先で味わう、
ぶどう、野菜、果実、新米。

料理として運ばれてくる前に、
それらが育っていた場所があります。

朝露の残る畑。
風が抜けるぶどう棚。
稲穂が揺れる田んぼ。

秋の味覚を食べるだけでなく、
育った時間と、つくる人に近づく。


6つの宿から、収穫と滞在のつながりを見ていきます。

STAY WHERE FOOD BEGINS

料理の説明を聞く前に、
畑の景色を見る。

地産地消を掲げる宿は、たくさんあります。

けれど今回見るのは、地元産の食材を使っているかだけではありません。

宿泊者が土や作物に触れられるのか。畑と食卓がどのようにつながっているのか。育てる人の仕事が、滞在の中に見えるのか。

食材の産地を表示するだけでなく、
食べ物が生まれる場所へ、宿から近づけるか。


その距離を比べます。

画像は記事テーマをもとに作成したイメージビジュアルです。実際の宿、畑、果樹園、ぶどう畑、水田、料理、人物、景観とは異なる場合があります。

EDITOR’S NOTE

収穫体験は、
農作業を見せるアトラクションなのか。

作物は、旅行者の予定どおりには育ちません。

暑さ、雨、台風、病気。その年の天候によって、収穫時期も量も変わります。

希望していた果物が採れない日もあれば、種まきや畑の手入れを体験する日もあります。

採る瞬間だけでなく、
収穫までに続いてきた仕事を伝えられるか。


体験の派手さではなく、農業と滞在の関係を読みます。

FOUR PERSPECTIVES

収穫に泊まる、4つの視点

FIELD|何が、どの土地で育っているか

TOUCH|宿泊者は、どこまで農作業に触れられるか

TABLE|収穫物が、どう食卓へ届くか

PEOPLE|育てる人の仕事や考えが見えるか

01 / VINEYARD & VINTAGE

Winerystay TRAVIGNE

ぶどうを摘む前から、
ワインの時間は始まっている。

Winerystay TRAVIGNEは、新潟・角田山の麓にあるカーブドッチワイナリーのぶどう畑に囲まれた、小さなホテルです。

客室やラウンジの窓から見えるのは、完成したワインではなく、それが生まれる前の畑。

ワイナリーツアーでは、ぶどう畑、醸造棟、樽熟成庫、地下セラーを巡り、土から瓶へ移っていく工程をたどります。

宿泊者が必ず収穫へ参加する宿ではありません。

けれど、実りの秋の畑を眺めながら、料理とワインを味わえば、一杯の中に土地や季節があることを実感できます。

FIELD|角田山の麓に広がるワイン用ぶどう畑

TOUCH|畑と醸造の工程をワイナリーツアーでたどる

TABLE|土地の料理とカーブドッチワインを合わせる

 

 

02 / AGRITURISMO

リゾナーレ那須

収穫する日も、
畑を整える日もある。

リゾナーレ那須は、農業と観光を組み合わせたアグリツーリズモを掲げる高原リゾートです。

敷地内のアグリガーデンでは、毎日の農作業に触れる「ファーマーズレッスン」を開催。

実った野菜やハーブを収穫する日もあれば、種をまく、畝をつくる、肥料を整えるといった作業の日もあります。

秋には稲刈りをはじめとする、実りの季節ならではの風景も現れます。

収穫の楽しい部分だけを切り取らず、育てる途中の仕事も農業の一部として見せている宿です。

FIELD|野菜、ハーブ、米を育てるアグリガーデン

TOUCH|収穫だけでなく、種まきや畑づくりにも触れる

PEOPLE|スタッフから、その日に必要な農作業を学ぶ

 

 

03 / HARVEST & BBQ

農園リゾートTHEFARM

畑で採った野菜を、
その日の夕食へ。

千葉県香取市にあるTHE FARMは、広い農園を中心に、コテージ、グランピング、温泉、レストランを備えた農園リゾートです。

畑では季節の野菜を収穫し、採れた野菜を持ち帰ることができます。

宿泊プランによっては、収穫した野菜をそのままBBQで味わう過ごし方も。

スーパーで整えられた野菜とは違い、土がつき、大きさや形もそろっていません。

採ったものを洗い、切り、焼いて食べるまでを一続きにすることで、収穫が食事の前座ではなくなります。

FIELD|季節ごとに異なる野菜が育つ広い農園

TOUCH|宿泊者が畑へ入り、自分の手で収穫する

TABLE|採れた野菜をBBQや滞在中の食事へ

 

 

04 / ORCHARD STAY

マルサマルシェ 一棟貸し宿
【桃源の家】【庭園の家】

果実を採り、
自分たちで一皿にする。

山梨県笛吹市にある、果樹園とつながった一棟貸しの農泊です。

秋はぶどうから始まり、季節が進むとりんごや柿へ。生育状況に合わせて、その時期の果実を収穫します。

体験は果物狩りだけではありません。

採れた果物を使ったパフェ、ピザ、フルーツサンドづくりや、地域の食材を使った料理にもつなげられます。

木から実を外す瞬間と、食べやすく加工されたスイーツの間にある手仕事まで体験できる宿です。

FIELD|桃、ぶどう、りんご、柿などの果樹園

TOUCH|旬の果実を自分で選び、収穫する

TABLE|収穫した果実を料理やスイーツへ変える

 

 

05 / RICE FIELD & NEW CROP

SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE

稲刈りのあとに残る景色を、
ホテルから眺める。

SUIDEN TERRASSEは、山形県庄内平野の水田に浮かぶように建つホテルです。

春の水鏡、夏の青田、秋の稲穂。客室や共用部から、米が育つ時間そのものを眺められます。

秋、田んぼは黄金色から刈り取り後の静かな風景へ変わり、食卓には庄内の新米が届きます。

レストランでは米を単独の名物として扱うだけでなく、雪解け水が田を潤し、米や酒、海の恵みへつながる循環を料理で表現しています。

収穫をイベントとして見るより、米づくりが地域の風景と食文化をつくっていることを感じたい宿です。

FIELD|庄内平野に広がる水田

SEASON|青田、稲穂、刈り取り後まで景色が変わる

TABLE|新米と庄内の水・酒・食文化を味わう

 

 

06 / FARM TO HOTEL TABLE

八ヶ岳グレイスホテル

ホテルの裏側にある畑が、
料理の主役を育てる。

八ヶ岳グレイスホテルは、複数の畑からなる直営の八ヶ岳グレイス農園を運営しています。

標高差のある畑を使い分け、多くの種類の高原野菜を育て、収穫した野菜をホテルの料理へ。

野菜は付け合わせとして少量添えるのではなく、料理の中心に置かれます。

畑ではまだ薄暗いうちから収穫が始まり、その日に状態のよい野菜が食卓へ運ばれます。

宿泊者が必ず畑へ入るわけではなくても、ホテル自身が育てる側に立つことで、厨房と農園の距離が近くなっています。

FIELD|高原の気候を生かしたホテル直営農園

PEOPLE|農園スタッフが土と収穫時期を管理

TABLE|毎朝採れた野菜をホテルの料理へ

 

 

SIX WAYS TO MEET THE HARVEST

収穫との出会い方は、それぞれ違う。

Winerystay TRAVIGNE|ぶどう畑と醸造の時間に泊まる。

リゾナーレ那須|収穫まで続く農作業へ参加する。

農園リゾートTHEFARM|採った野菜を、その日の食事へ。

マルサマルシェ|果実を採り、自分たちで一皿にする。

SUIDEN TERRASSE|米が育つ景色と新米を味わう。

八ヶ岳グレイスホテル|ホテル自身が畑を耕し、料理へ届ける。

TASTE THE TIME BEFORE THE TABLE

収穫に、
泊まる。

ぶどうを眺め、
土に触れ、
野菜や果実を手に取る。

稲が刈られたあとの田んぼを見て、
炊きたての新米を食べる。

食材の名前だけを知る旅から、
育った場所と時間を知る旅へ。

収穫とは、完成した味を受け取る瞬間ではなく、
長く続いてきた仕事の一区切り。


その背景に泊まると、
秋の一皿は少し違って見えてきます。

REFERENCE

記事作成にあたり、各宿泊施設、ワイナリー、農園、果樹園、農業体験、料理、および楽天トラベルの施設・宿泊プラン情報を確認しています。

※掲載内容は2026年7月時点の公開情報をもとに構成しています。収穫物、農作業、体験内容、開催日、料金、食事、宿泊プランなどは天候や生育状況により変更されます。収穫体験が必ず実施されるとは限りません。最新情報は各施設の公式サイト・予約ページでご確認ください。

夕食は、
宿の中で食べなくてもいい?

一泊二食の旅館なら、
夕方には宿へ戻ります。

食事処へ向かい、
その土地の料理を味わう。

移動の心配もなく、
献立を考える必要もありません。

けれど、宿で夕食を用意しないことが、
町へ出る理由になる場合もあります。

暖簾の向こうにある居酒屋。
地元の人が通う定食屋。
夜だけ灯りがともる小さな料理店。

宿に泊まり、町で食べる。

6つの宿から、ホテルと地域の食堂の関係を見ていきます。

LET THE TOWN SERVE DINNER

夕食を用意しないことは、
サービスを減らすことなのか。

宿の中にレストランがなければ、旅行者は自分で食事処を探さなければなりません。

営業時間を調べ、空席を確認し、知らない夜道を歩く。満席や定休日で、思いどおりに食べられないこともあります。

一方で、宿がすべてを館内へ集めれば、旅行者が町の店へ入る機会は少なくなります。

食事を外へ委ねる代わりに、
宿は町へ出るための情報と安心を用意できるか。


食事をつくらない宿ではなく、町の食へつなぐ宿として読み解きます。

画像は記事テーマをもとに作成したイメージビジュアルです。実際の宿、飲食店、料理、町並み、人物、周辺景観とは異なる場合があります。

EDITOR’S NOTE

町へ出せば、
地域にお金が落ちるのか。

宿泊者が近所の店で食事をすれば、宿泊料金とは別のお金が地域へ動きます。

ただし、旅行者向けの人気店だけに人が集中すれば、町の食文化全体を支えることにはならないかもしれません。

店を一覧に載せるだけでなく、なぜその店をすすめるのか。店主や料理の背景まで伝えられるか。

宿が食事を手放したあと、
どこまで旅人の夜に伴走するのか。


案内、歩く距離、店との関係、帰り道から6つの宿を見ます。

FOUR PERSPECTIVES

町で食べる夜を読む、4つの視点

GUIDE|宿は店をどう選び、紹介するか

WALK|食事処まで、どんな町を歩くか

MONEY|宿泊者の支出が地域へ届くか

RETURN|食後、安心して宿へ戻れるか

01 / THE TOWN AS A RESTAURANT

hanare

ホテル自慢のレストランを、
谷中の町に置く。

hanareは、谷中の町全体を一つのホテルとして使う宿です。

レセプションはHAGISO、客室は路地の中、大浴場は町の銭湯。そして、ホテル自慢のレストランは、谷中にある飲食店だと考えます。

宿の建物に料理人や食事処を持たず、その代わりに、コンシェルジュが町の情報や利用の仕方を案内します。

食事をするために外へ出れば、路地の幅、店の灯り、夜の谷中に残る生活の気配まで、夕食の一部になります。

宿が町の飲食店を代用品として使うのではなく、町にすでにある日常をホテルの価値として位置づけている宿です。

GUIDE|コンシェルジュが谷中の過ごし方を案内

WALK|客室、銭湯、飲食店を路地でつなぐ

BOUNDARY|ホテルの食堂と町の店を分けない

 

 

02 / THE SHOPPING STREET AS A DINING ROOM

セカイホテル大阪布施
‐ Deep Osaka Experience

商店街の飲食店を、
本当の夕食会場にする。

セカイホテル大阪布施では、客室が商店街の中へ分散しています。

夕食はホテル内のレストランではなく、地元の人が普段から利用している海鮮居酒屋、鉄板料理店、寿司店などへ。

宿泊プランによっては町の飲食店での夕食が組み込まれ、宿のスタッフや地域の店が一緒に滞在をつくります。

観光客だけが集まる食事処ではなく、仕事帰りの人や常連客がいる店へ入るため、料理だけでなく大阪の日常に触れる時間になります。

ホテルが食堂を町へ委託するのではなく、商店街を巡ること自体を宿泊体験として設計している例です。

GUIDE|スタッフと周辺マップが店選びを支える

MONEY|宿泊料金とは別に、商店街の店へ支出が動く

MIX|常連客と旅行者が同じカウンターを使う

 

 

03 / A MAP FOR DINNER

OMO3浅草 by 星野リゾート

店を決める前に、
ホテルの地図を読む。

OMO3浅草には、スタッフが実際に歩き、飲食店や店の情報を集めた「ご近所マップ」があります。

老舗のどじょう料理、洋食、寿司、天ぷら、そばなど、浅草らしい店だけでなく、地元で愛される穴場も紹介されています。

ホテルが夕食を提供する代わりに、旅行者だけでは判断しにくい「どんな店か」「誰に合うか」を編集して渡します。

浅草は店の数が多い一方、観光客向けの情報も多く、選択肢の多さが迷いにつながる町です。

スタッフ自身が確かめた情報が、町へ出る直前の不安を減らし、ホテルの外にある夕食へ旅人を送り出します。

GUIDE|徒歩圏の店をスタッフが取材・更新

CHOICE|多すぎる選択肢を、旅人に合わせて編集

RETURN|夕食後も浅草の夜を歩いて宿へ戻る

 

04 / GOOD LOCAL FOOD

hotel around TAKAYAMA,
Ascend Hotel Collection

館内で食べることも、
町へ食べに出ることも選べる。

hotel around TAKAYAMAにはレストランがあり、飛騨の食材を使った夕食プランも用意されています。

それと同時に、ホテルは「GOOD LOCAL」を掲げ、町の定食屋、ソウルフード、カフェ、食べ歩きの情報を発信しています。

館内の食事を否定するのではなく、その日の気分に合わせて、ホテルと町のどちらで食べるかを選べる構造です。

有名な飛騨牛だけでなく、地元の人が日常的に通う店を紹介することで、高山の食を観光名物だけに限定しません。

宿が自分のレストランだけをすすめず、町の店も同じ「食との出会い」として扱う点に、地域の案内所としての役割が見えます。

GUIDE|地元スタッフが町の食と人を紹介

CHOICE|館内の夕食と町の夕食を選べる

DEPTH|名物だけでなく、日常の味へつなぐ

 

 

05 / DINNER WITH A NEIGHBOR

RITA 出雲平田

提携店の食事を、
宿泊プランの中へ組み込む。

RITA 出雲平田は、酒蔵や町家を再生した、木綿街道の分散型宿泊施設です。

夕食付きプランでは、宿の建物内ではなく、近隣の料理店まで歩いて向かいます。

地元の食材を使った料理と、木綿街道の酒蔵がつくる日本酒を組み合わせたペアリングディナーが、宿泊体験として設計されています。

単に近所のおすすめ店を紹介するのではなく、宿、料理店、酒蔵が役割を分担し、一つの夕食をつくります。

宿泊者が町の店へ出向くことで、木綿街道に残る醸造や商いの文化を、建物の見学ではなく食事として体験できます。

GUIDE|夕食の店を宿泊プランとして予約

RELATION|宿、料理店、酒蔵が一つの体験をつくる

WALK|古い町並みを歩いて食事処へ向かう

 

 

06 / NO RESTAURANT INSIDE

フェアフィールド・バイ・マリオット・
京都天橋立

レストランを置かず、
町へ食堂の役割を返す。

フェアフィールド・バイ・マリオットの道の駅ホテルには、原則として館内レストランがありません。

京都天橋立も、快適な客室と共用ラウンジを用意する一方、夕食は宮津市街の飲食店へ出かけます。

周辺には寿司、割烹、海鮮料理、居酒屋などがあり、ホテル側も近隣の飲食情報を案内しています。

館内ですべてを完結させないことで、旅行者の食費と滞在時間が、港町にある既存の店へ向かいます。

ただし、定休日や満席、閉店時間の影響も受けます。自由と引き換えに、旅人自身が町の営業時間に合わせる必要がある宿です。

REDUCE|館内の食事機能をシンプルにする

MONEY|夕食の支出を宮津の店へ動かす

CHECK|予約、定休日、帰りの時間を自分で整える

 

 

SIX WAYS TO EAT OUTSIDE THE HOTEL

町で食べる理由のつくり方

hanare|町の飲食店を、ホテル自慢のレストランと考える。

セカイホテル大阪布施|商店街の店を、実際の夕食会場にする。

OMO3浅草|スタッフが集めた情報で、店選びを支える。

hotel around TAKAYAMA|館内と町、二つの夕食を編集する。

RITA 出雲平田|提携店と酒蔵を、宿泊プランでつなぐ。

フェアフィールド京都天橋立|食堂を持たず、夕食を町へ委ねる。

DINNER BEGINS OUTSIDE THE DOOR

夕食は、
宿の中で食べなくてもいい?

宿を出て、
夜の町を歩く。

店を選び、暖簾をくぐり、
地元の人と同じ食堂へ入る。

その時間には、館内の夕食にはない不確かさがあります。

けれど宿が、店との関係や町の情報を丁寧に手渡せば、
その不確かさは、町へ踏み出す余白になります。

夕食を用意しないことは、
食事を手放すことではなく、
旅の食堂を町へ広げることかもしれません。

REFERENCE

記事作成にあたり、各宿泊施設、提携飲食店、周辺飲食情報、および楽天トラベルの施設・宿泊プラン情報を確認しています。

※掲載内容は2026年7月時点の公開情報をもとに構成しています。飲食店、提携先、夕食プラン、営業時間、定休日、料金、メニュー、予約条件などは変更される場合があります。夕食を町でとる場合は、事前予約と帰路を含めた最新情報をご確認ください。

温泉は、
宿の中だけにある?

浴衣に着替え、
手ぬぐいと部屋の鍵を持つ。

玄関で下駄を履き、
湯気の上がる町へ出る。

せっかく温泉旅館に泊まったのに、
なぜ宿の風呂ではなく、町の湯へ向かうのでしょう。

豪華な露天風呂や、
客室専用の温泉とは違う時間があります。

道を歩き、暖簾をくぐり、
地域の人が守る湯を借りる。


6つの宿を起点に、
客室の外まで続く温泉旅を見ていきます。

THE TOWN AS ONE LARGE BATHHOUSE

宿を出ることで、
温泉街が滞在の一部になる。

宿の中に大浴場、露天風呂、貸切風呂が揃っていれば、外へ出なくても温泉を十分に楽しめます。

それでも外湯のある町では、浴衣姿の旅行者が道を歩き、異なる湯を巡ります。

共同浴場を地域の人と使う町。宿泊者だけに渡される鍵で九つの湯を開ける町。旅館同士が露天風呂を共有する町。

温泉を一軒の宿へ囲い込まず、
町の中へ分けて置く。


その仕組みによって、道や商店、橋、夜の灯りまで、温泉体験の一部になっていきます。

画像は記事テーマをもとに作成したイメージビジュアルです。実際の温泉街、宿、浴場、建物、景観、人物とは異なる場合があります。

EDITOR’S NOTE

宿の風呂が充実するほど、
町を歩く理由は失われるのか。

外湯には、旅館の大浴場ほど整った設備がないこともあります。

湯が熱い。洗い場が少ない。石けんを使えない。営業時間や清掃時間がある。混雑していて、ゆっくり入れない。

けれど、その不便さは、そこが観光客だけのためにつくられた温泉ではないことの表れでもあります。

町の湯へ入ることは、
地域の日常へ少しだけ参加することなのか。


利用のルールや背景まで含めて、6つの温泉街を歩きます。

FOUR PERSPECTIVES

外湯を読む、4つの視点

KEY|誰が、どのように入れるのか

WALK|宿から湯まで、どんな町を歩くのか

RULE|地域の湯を借りるための作法

BOUNDARY|宿と温泉街の境界はどこにあるのか

01 / THE TOWN AS ONE RYOKAN

城崎温泉 西村屋ホテル招月庭

宿は客室。
外湯は、町の大浴場。

城崎温泉には、「まち全体が一つの大きな宿」という考え方があります。

駅は玄関、道は廊下、旅館は客室、外湯は大浴場。飲食店は食堂、土産物店は売店として、温泉街全体で旅行者を迎えます。

町には趣の異なる七つの外湯があり、浴衣と下駄で歩ける距離に点在しています。

西村屋ホテル招月庭にも大浴場や露天風呂があります。それでも、宿の温泉だけで滞在を終えず、川沿いの柳や橋、商店の灯りを眺めながら外湯へ向かう。

温泉が町へ分散しているからこそ、歩く時間そのものが、城崎に泊まる体験になります。

KEY|趣の異なる七つの外湯

WALK|浴衣と下駄で、川沿いの温泉街へ

BOUNDARY|道までを宿の廊下として考える

 

 

02 / BATHS KEPT BY THE VILLAGE

野沢温泉 常盤屋旅館

共同浴場を、
地域の人から借りて使う。

野沢温泉には、村内に十三の外湯があります。

これらは観光施設として一括運営されているのではなく、江戸時代から続く「湯仲間」と呼ばれる地域の人々によって管理されてきました。

旅行者にも開放されていますが、入口の賽銭箱へ維持管理のための寸志を入れ、地域の共同浴場を使わせてもらいます。

常盤屋旅館の隣には、野沢温泉を象徴する外湯「大湯」があります。旅館にも複数の自家源泉がありますが、外湯を巡れば、湯の温度や建物、地域との距離が少しずつ変わります。

観光客のために用意された湯へ入るのではなく、暮らしの中にある湯を借りる。その感覚が、野沢温泉の外湯巡りには残っています。

KEY|村内に点在する十三の共同浴場

RULE|湯仲間が守る湯へ、寸志を入れて入浴

QUESTION|旅行者は地域の湯をどう丁寧に使えるか

 

 

03 / NO BATH INSIDE

小石屋旅館

宿に温泉をつくらず、
町の九湯へ送り出す。

小石屋旅館の館内には、温泉も浴場もありません。

温泉街の宿としては、大きな欠点にも見えます。

けれど、渋温泉へ宿泊した人には、九つの外湯を開けるための鍵が渡されます。浴衣と下駄に着替え、石畳の町へ出て、それぞれ異なる源泉の湯を巡ります。

宿の中へ温泉を囲い込まないことで、旅行者は必ず町を歩くことになります。

温泉のない旅館は、サービスを減らした宿ではなく、渋温泉そのものを大浴場として使うための客室とも考えられます。

KEY|宿泊者だけが使える鍵で九湯を巡る

WALK|浴衣姿で石畳の温泉街へ

BOUNDARY|宿は眠る場所、温泉は町の中

 

 

04 / ONE ONSEN, MANY RYOKAN

黒川温泉 旅館 山河

一軒の風呂ではなく、
旅館どうしで温泉街をつくる。

黒川温泉の入湯手形では、約二十五軒の旅館の露天風呂から、好みの三カ所を選んで入浴できます。

一つの宿が大きな温浴施設をつくるのではなく、それぞれの旅館が持つ露天風呂を温泉街の共有資源としてひらく仕組みです。

入湯手形は1986年に始まり、2026年に四十周年を迎えました。

旅館 山河は温泉街の中心から少し離れた森の中にあり、二つの泉質を楽しめます。そこから別の旅館の風呂へ向かえば、森、川、露天風呂、宿の佇まいが一湯ごとに変わります。

宿同士が競いながら、同時に一つの温泉郷として協力する。その関係を、旅行者は手形を持って歩くことで体験します。

KEY|入湯手形で好きな三つの露天風呂へ

MIX|複数の旅館が、湯を温泉街へひらく

QUESTION|一軒の利益より地域全体を選べるか

 

 

 

05 / THREE PUBLIC BATHHOUSES

道後温泉 大和屋本店

宿の大浴場と、
町の三つの湯を使い分ける。

大和屋本店は、道後温泉本館のすぐ隣に建つ温泉旅館です。

館内には数寄屋造りの大浴場がありますが、一歩外へ出れば、道後温泉本館、椿の湯、飛鳥乃湯泉という三つの公共浴場があります。

木造建築の歴史を感じる本館。地元の人にも親しまれる椿の湯。飛鳥時代の建築を現代的に読み替えた飛鳥乃湯泉。

使われている源泉だけでなく、建物、休憩方法、町との距離が異なります。

宿の湯で静かに休む時間と、商店街を歩いて公共浴場へ向かう時間。二つを使い分けることで、道後温泉の歴史が一軒の旅館だけではないことが見えてきます。

KEY|本館、椿の湯、飛鳥乃湯泉の三館

WALK|宿から商店街と公共浴場へ

CHOICE|歴史、日常、現代性の異なる湯屋を選ぶ

 

 

06 / THE ONSEN PILGRIMAGE

別府鉄輪温泉 山荘 神和苑

一泊では終わらない、
町じゅうの湯を集める旅。

別府八湯温泉道には、約百五十の温泉施設が参加しています。

参加施設へ入り、「スパポート」と呼ばれる帳面に入湯記念印を集める。八十八湯を巡れば、「温泉道名人」として認定されます。

一度の滞在で完成させるには多すぎる数です。

山荘 神和苑には客室温泉や大浴場がありますが、鉄輪の湯けむりを歩き、共同浴場や別府各地の湯を巡れば、宿の温泉とは異なる泉質や暮らしに出会えます。

温泉を楽しむだけでなく、印を集めながら何度も別府へ戻る。温泉道は、町全体を長い時間をかけて知るための仕組みでもあります。

KEY|約百五十湯が参加する温泉道

RULE|スパポートへ入湯記念印を集める

RETURN|八十八湯を目指し、何度も町へ戻る

 

 

SIX TOWNS, SIX WAYS TO BATHE

町の湯との関わり方は、それぞれ違う。

城崎温泉|町全体を一つの旅館として歩く。

野沢温泉|地域が守る共同浴場を借りる。

渋温泉|宿泊者の鍵で九つの湯を開ける。

黒川温泉|旅館同士が露天風呂を共有する。

道後温泉|性格の異なる三つの公共浴場を選ぶ。

別府八湯|印を集めながら、長い時間をかけて巡る。

THE BATH CONTINUES OUTSIDE

温泉は、
宿の中だけにある?

暖簾をくぐり、
宿の風呂へ入る。

それだけでも、温泉旅は完成します。

けれど、浴衣で町を歩けば、
橋や商店、夜の灯り、地域の暮らしまで、滞在の中へ入ってきます。

外湯へ入ることは、
温泉街の日常を少しだけ借りること。


便利さや豪華さだけでは測れない、
町と湯の関係を知る旅になります。

REFERENCE

記事作成にあたり、各温泉街、外湯、共同浴場、入湯手形、温泉道、宿泊施設の公式情報、および楽天トラベルの施設・予約情報を確認しています。

※掲載内容は2026年7月時点の公開情報をもとに構成しています。浴場数、営業時間、定休日、入浴条件、料金、利用できる施設、宿泊プランなどは変更される場合があります。外湯には地域独自の利用ルールがあります。最新情報を確認し、マナーを守ってご利用ください。