本日、千秋楽。
演出:小川絵梨子(本年度新国立劇場芸術監督)
客席には、もともと井上ひさしを好きな観客も多かったんだと思います。
年配のかたが多い客層で、その観客がわたしが舞台を観てのみ込むより早く受けているんです。たぶん、その台詞の意味をちゃんと知っていて、こっちが聴いて理解する前に反応していたというか。
そういう意味で、もう一度観たかったです。その一瞬の出遅れを取り戻すために。
それほど、この作品が愛され続けているんだと思いました。
しかもこのタイトルをみて、最初は映画なんだと思っていたんです。映画の舞台版なのかと。
映画の脚本を書いたあとに執筆された舞台オリジナルの台本で、それは井上ひさしの意地の悪さ、面白さ満載です。
舞台を、芝居を愛する人達へのオマージュがほとばしっていた新国立劇場小ホールでした。
1人目は人気娘役新進女優田中小春(趣里)。幹部女優たちに大根より酷いから大根になりなさいと意地悪を言われているけれど、そんなものに全く動揺もしない、負けもしない、したたかさ。
2人目は舞台出身で中堅どころの滝沢菊江(鈴木杏)。ヴァンプ役で人気者。ヴァンプって、一体何?
ヴァンプは男を惑わすあやしげな魅力を持つ女を指す言葉らしいので、この舞台でもその魅力に嫉妬する女優たちから酷いいじめを受けてます。だからといってへこたれることなく、しっかり若手イジメもする異彩を放っている女優。
3人目は白塗りのお母さん役シリーズで人気の徳川駒子(那須佐代子)。大幹部待遇で一見優しいお母さん風ですが若手潰しがエゲツナイ。
4人目は若草物語ならぬ、豚草物語のまるで長女的存在·大スター立花かず子(高橋惠子)
青い帽子と衣裳が上品でかつ貫禄。
その時代、日本映画界に存在した序列。大幹部として君臨していたのが長年大スターの座を譲らない大女優。その存在を示すためにはやはりエゲツない!
その4人の張り合いだけですでに可笑しい出演者たち。
そんな松竹蒲田撮影所所属の女優たちが映画監督小倉虎吉郎(千葉哲也)に呼ばれ築地東京劇場に集められたところから始まります。
帝大卒のエリート青年(章平)が助監の役割でサポートしながら監督の思惑通りに進んでいくのですが…。
くさいセリフも直球でズシーンときたり、エゲツナイ応酬はお互いするもののプライドがあるからこそライバルに対する心理が互いに理解できていたり。
そして春先に感動したイリュージョニストを彷彿させられる展開に。
思い込んで見ていると二転三転ひっくり返されます。
笑えるのにホロリときます。
鋭く秀逸な戯曲が今の、若手演出家たちに解釈され上演され続けることこそ演劇の芸術の継承であり、
それを目撃することを手離さないことが観客にとって大切な行為だと感じます。