オリジナル小説 【キリング・ミー・ソフトリーをあなたに】(最終回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(251作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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『これ、もらってくれる?』
武史はその最後まで残していたカウンターの写真を千絵子に手渡そうとした。
『この作品は、武史が一番初めにこのギャラリーに展示した作品じゃない。そんな想い入れのある作品を、もらうことなんか出来ないわ』
そう言い終わると千絵子は1階の喫茶店に降りて行こうとした。

『本当に、持って行ってよ!君は僕の写真の最大の理解者だから、これからも・・・』
そこから先の言葉を飲み込んだ武史は、強引に千絵子の肩に手を掛け、手にしていた写真を押し付けた。
『ありがとう!』

そう言いながら千絵子は武史から写真を受け取った。独りギャラリーに取り残された武史は、逃げ込むように暗室の中に飛び込んだ。勿論暗室でやるべき事など何も無かった。ただ今眼の前で起こったことを、独りきりになって整理したかっただけだった。

千絵子と武史の間に一体何があったと言うのだろう。あったとすれば武史の中だけで全て帰結する内容だけだった。勝手に千絵子の存在に女性を感じ始めていたのは、武史の独り相撲に過ぎなかった。そもそも武史は自分の千絵子に対する想いと、真剣に向き合ってもいなかった。

偶然にも夜中の公園でロバータ・フラッグの《♪やさしく歌って》を、ギターを弾きながら唄っていた女の子に武史は出会った。勿論その時には、出会った女の子が千絵子だったことなど知る由も無かった。それが偶然にも増川さんの写真ギャラリーに出入りしていた千絵子と、武史は再会することとなった。

それからは何度もギャラリーでBGMとして流れていたロバータ・フラッグの《♪やさしく歌って》を聴きながら、武史と千絵子は2人きりの時間を過ごした。ただそんな時間の中で武史は、無理やりに千絵子のことを女性として観ることを避けて自分が撮る写真の一番の理解者であると言う枠の中に押し込んでいた。

それは突然千絵子がこの神楽坂の街を去って行くと聞いてから、武史が気付かされたことだった。最後までギャラリーに残していたカウンターの写真が消えたことを、増川さんは見逃さなかった。武史は正直に千絵子が京都に行く餞別代りに、千絵子に贈呈したことを増川さんに話した。

増川さんは千絵子の実家が、増川さんの喫茶店がある同じ商店街で老舗の履物や袋物を取り扱っているお店をしていることを教えてくれた。更に増川さんは個人的に小さい頃からの千絵子をよく知っていることも付け加えた。

実家のお店が忙しい時には、千絵子は大好きな絵本を増川さんの喫茶店に持ち込んでジュースを飲みながら何時間も過ごしていた懐かしい話まで武史は増川さんから教えてもらった。

そんな小さい頃からの千絵子をよく知っている増川さんは、あくまでも推測の話と断ったうえで、ひょっとすると千絵子が武史の写真だけじゃなくて武史本人にも惹かれていたのではないかとまで言ってくれた。そして千絵子は以前から勉強してみたいと言っていた染物の世界を学ぶために、京都の染物屋に行ったことを教えてくれた。
 
武史の目の前から千絵子が姿を消してから、半年が過ぎようとしていた。相変わらず武史は増川さんの写真ギャラリーを活動拠点の中心として、1日中祖父ちゃんの形見であるニコンFM10を手にして街中に飛び出して行っていた。

相変わらずに街中には偶然目にする物と物、人と人、物と人との間で交わされる会話が、武史には聞こえて来ていた。武史が撮った写真の評判はますます上がって行っていた。そんな状況が続いていた時にその切っ掛けを作ってくれた写真雑誌の出版社が、武史の写真集を出すことを企画してくれた。すべての武史の写真を管理していた増川さんの協力も受けて、その企画はすぐに実現することとなった。

駆け出しの写真作家である武史には、立派過ぎるほどの写真集が出来上がった。武史は迷うことなく、増川さんに千絵子がいるはずの染物屋さんの名前と住所を尋ねた。武史はたった一言《これからもずっと傍にいて写真の中の会話を一緒に聞き続けて欲しい》と言う言葉だけを胸に秘めて、出来上がったばかりの写真集《キリング・ミー・ソフトリーをあなたに》を手にして京都に向かった。

                了


表紙

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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円

【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ


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