つづきです↓

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・紫織は”慎ましさ”とは真逆の性格?

 

さて、鷹宮紫織は持病による複数の合併症を持っており、そのためネガティブ思考に陥る気の毒な女性なのだという仮定を前頁で書きましたが、紫織の本来の性格はどうだったのか気になるところです。婚約以前は、なにかと控えめな性格に描かれている事もあった彼女も、真澄のプロポーズ後からは、粗雑さが見え隠れしています。彼女は病気のため”慎ましく”生きねばならなかっただけであって、本来の性格が慎ましかったのかはわかりません。

 

梅の里で月影千草の「紅天女」の演技に魅入るあまり、ふらふらと席を立って地面に座りこんでしまったマヤを紫織は行儀が悪いといわんばかりに「ま…!」と、手を口にあてて嫌悪しています。さらに真澄が、(やる気を出させる事をねらって)マヤに向かって”おてんばな梅の根っこの精”と、いつものように揶揄った時、紫織は馬鹿にしたように、泥だらけのマヤをクスリと笑っているのです。マヤも年頃の女性です。たとえ真澄の婚約者でなくとも、自分の身なりを笑われていい気持ちはしないでしょう。

 

紫織はなぜマヤにこんな振る舞いを見せたのでしょうか。この時の紫織は山道を歩けるほど健康で、欲しい物(真澄)を手中に収め正に幸福の絶頂、ストレスもなかったでしょうから、無駄にマヤを攻撃する必要もなかったはずです。しかし彼女は得意満面だったのか、かねてからライバル心を燃やしていたマヤに向かってマウントをとろうとしました。招かれてもいないのにわざわざ出向き、演技の稽古中の役者を笑ったのです。紫織は、マヤを泣かせてしまって呆然となっている真澄をつっつき一言いいます。「いきましょう。あんな少女をからかっちゃいけませんわ」このコマだけを見れば”稽古中の役者を邪魔しちゃいけませんわ”ともとれますが、たった今馬鹿にしたように笑ったのは紫織の方です。「あんなとるにたらない泥だらけの少女に意識をかける必要はない」と、まるで上級国民のような言い草に聞こえはしないでしょうか。(いや実際上級国民なのでしょうが)

 

・紫織の仮病説

 

読者が紫織に一番イラつく点は、病気を理由に真澄に寄っかかり、彼の意識をコントロールしようとしているところでしょう。絶妙なタイミングで発作を起こし、まるでギャグを狙ったようなワザとらしい倒れ方をしている時もあり、「コレ、ほんとに病気??」と、ツッこみたくなるときも。

 

紫織の立ち眩みは”仮病”説もあるようです。コミックス46巻のブライダルサロンで明らかに仮病を使っているので、疑われても仕方ないかもしれませんね…(;´д`)トホホ。わたしは彼女のクラリとなる症状は一部を除いてホンモノの貧血だと推察していますが、ひっくり返る程でもないじゃないかな~と思っています。真澄の気持ちを自分に向かせるために、自ら進んで派手に倒れているんじゃないでしょうか。

 

紫織のブッ倒れるシーンを最初から順を追って仮病の可能性がなかったのか確認し、もしそうなら彼女の目的は何だったのか、その時、真澄はどう思いどう行動したのか、その結果どうなったのか、それを検証してみたいと思います。

 

①コミックス30巻、マヤの前でブッ倒れる

 

コミックス30巻で紫織は、真澄がマヤと連れ立って話しながら歩いてくる姿に驚き、立ち上がろうとし、クラリとめまいを起こしています。そしてすかさず、倒れかかるところを真澄に抱えられています。真澄の落ち着いた態度、手慣れた様子から、彼女が真澄の目の前で貧血を起こしたのはこれが初めてではなさそうです。この出来事によって、直前まで仲良さそうに?喧嘩をしていたマヤと真澄の会話はここで裁ち切れてしまいました。

このシーンだけでは彼女の病状が本当の病か仮病なのかどうかは読者は分かりませんが、もし真澄の意識をマヤから自分に向けることが彼女の目的だったならば、彼女は実に絶妙なタイミングで立ち眩みを起こしていた事になります。

 

②コミックス35巻、真澄に結婚をしぶられブっ倒れる

 

コミックス35巻で、真澄に結婚を迫り承諾されなかった事を気に病んだ紫織は、主治医曰く”いつもの発作”を起こして寝込んだとされています。紫織は連絡を受けた慌てて駆け付けた真澄を拒絶し、見舞いを受け入れまいとしますが、このシーンこそ、紫織の最大の謀略だった可能性はないでしょうか。なぜならここでは紫織が倒れる瞬間のコマは描かれていないからです。彼女は登場の最初から寝間着姿で布団の中にはいっているだけでした。これは何を意味するのでしょうか?

 

紫織は「なぜわたしとお見合いをしたのか」「優しい言葉をかけて有頂天にさせるのか」「あなたの心はわたしにはない」「同情ならたくさん、子供の頃から聞き飽きている」「あなたはわたしの気持ちに何も答えてくださらない」「ただ優しくしてくださるだけ」「あわれみはいらない」と、真澄の所業?を並べ立て非難します。恋に落ちた男性に自分は嫌われていないようだが好かれてもいない、病身の自分に同情してくれる哀れみ深いただの優しい男性だと知って、女心が傷ついてしまったのは理解できますが、仕事や立場をからめないフラットな状態で出会ったふたりならいざしらず、それを祖父の面前で真澄を非難する理由になるでしょうか。

 

わたしがここで強調したいのは、紫織の祖父である鷹宮翁が、傍らで事の一部始終を見聞きしている事です。真澄の首根っこを摑まえるために、仮病を使って権力者の祖父いる自宅に真澄を呼び出した紫織の意図を強く感じます。(紫織の病状を真澄に連絡をしてきたのはばあやだったようですが、ばあやは単独でそんな事はしないんじゃないか)

 

なぜなら紫織はこの時点で自分は真澄に結婚するほど好かれていない事を分かっていたからです。そんな真澄の方から頭を下げてプロポーズさせるには、祖父の目の前に連れてくるのが一番効果的でしょう。「あなたはわたしの気持ちに何も答えてくださらない」と言って、文句をつけた紫織は、一見真澄に傷つけられた被害者のように見えますが、鷹宮翁がここにいる事によって「わたしの気持ちに応えなさい」と、まるで目下の者に命令する権力者のように見えます。

 

真澄も三十歳を超えた健康な男性ですから、これまでの人生で心残りのある女性もいて当然ですし、また立場上、取引相手として速水家側から鷹宮家との縁談を断りにくい状況であったのは明白でしょう。しかし紫織は真澄の立場や気持ちを考えるような事はしませんでした。逆に紫織の態度は、祖父の威光をつかい、大都芸能の社長たる真澄の立場を危うくさせてまで、答えをださせようと真澄を追い詰めたのです。(のように見える)真澄は鷹宮翁の前で孫娘の紫織から”不誠実者”と罵られ、もう後がなくなってしまった。彼はまるで最後通牒を言い渡されたかのような顔になって、もってきた見舞いの花束を差し出し、「長い間あなたを悲しませせてすみませんでした」と言って、結婚を申し込んでしまいます。

 

真澄は、紫織をその気にさせてしまった責任を感じていたし、いずれプロポーズすべきだと腹を括っていたかもしれませんが、おそらくこの時結婚を申し込まざるを得なかったのは、鷹宮翁の存在故でしょう。逆にもしここに紫織の祖父がいなければ、彼は即答を避けていたかもしれません。冷静な状態になれば、この結婚は不幸を招くと気づき、引き返した可能性もあります。

この場面では、病気の自分が祖父の威光を持ち出せば、真澄様はなんでも自分の言う事を聞いてくれると学習した紫織の姿が描かれているように見えます。

 

③コミックス46巻、ブライダルサロンであからさまに”仮病”を使ってぶっ倒れる

 

読み直すのも忌まわしい?46巻のブライダルサロンで繰り広げられた、花嫁衣裳汚染事件、指輪盗難事件で、紫織は、あからさまに仮病を使って、ブッ倒れており、マヤに濡れ衣をかぶせます。誰の目にも明らかに「そんなのマヤのせいじゃないでしょ」と思われるような稚拙な小芝居でしたが、紫織がこの作戦でも「イケる」と自信をもって実行したのは、①と②の件で学習していたからでしょう。病気を盾にすれば真澄の意識をマヤから自分に向けることもわけないし、鷹宮の威光を持ち出せば、まわり(サロンの従業員)は自分の思うように動かせられるのだから、難なく成功させる自信があったんじゃないでしょうか。

 

彼女の策略は功を奏し、真澄はマヤの言い分を聞きもせず、紫織の言葉を信用し、ヒスを起こした上マヤを叱り飛ばしてしまいました。(真澄、悪い眼病にかかってんじゃないの?どこをどうやってみたらマヤがやったように見えるんだよ…と激しくツッこみたいところですが、この時の真澄は、マヤと桜小路との仲を憂いており、前回山岸邸でマヤからキツイ言葉を浴びせられて心が折れてしまっていたため単にマヤに逆切れしただけで、本当に疑っていたかどうかは不明)計画は成功し、紫織の勝利とも見れる場面でしたので彼女も満足だったでしょうが、皮肉にも紫織の謀略?が絶好調になればなるほど、このあたりから、なぜか真澄の心は紫織から遠ざかってゆき、距離は益々離れていく場面が描かれてゆきます。

 

この頃の真澄は、紫織の気持ちに応えたいと思いつつも、心は鉛のように重い状態だと独白しています。「病気を持ち出して泣き落とせば真澄様はわたしのもの」と、真澄を再び手中に収める事に成功したかのような紫織でしたが、愛情の確証を得るより、強引に婚約を押し切ってしまったため、真澄の本心を知る機会を逃してしまった、その時のツケがここにきていると思われます。

 

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つづく

 

 

さてここで、視点を変えて速水真澄の婚約者、鷹宮紫織にスポットを当ててみようと思います。

 

コミックス48巻まで速水真澄と結婚する気満々?な紫織でしたが、自らの悪行が真澄に知られてしまい、婚約破棄を切り出されてしまいます。追い詰められた彼女は手首を切って自〇を図ります。結婚式の打ち合わせと思い込み、上機嫌にやってきた席でいきなり結婚を考え直してほしいと切り出されたのですから、まあ無理もありません。

 

下手な嫉妬で怒りを爆発させてしまい、命より大事な真澄との縁を自らの手で断ち切ってしまった紫織。ショックのあまり正気を失ってしまった彼女は、この後いったいどうなってしまうのでしょうか。(50巻以降が発売されることがあれば)当然紫織のその後も描かれると思いますが、正直、彼女を描写すればするほど話の筋が「紅天女」から脱線しそうなので、いい加減ご遠慮頂きたいのが正直なところです。しかし彼女と真澄の拗れを綺麗にしない限り、マヤと真澄の仲も進展しないのが実情でしょう。(;´д`)トホホ

 

・紫織を悩ます病気とは?

 

紫織は作中で立ち上がった瞬間や衝撃を受けた時など、頻繁に倒れ込む場面が描かれています。病名は記されていませんが、単純に考えて貧血?の症状なのかなあと想像します。貧血は体に現れる症状ですから、元になる病気が何かあるはずです。彼女は一体何の病気だったのか?そしてどんな症状に悩まされていたのでしょうか?

 

マヤに対する数々の悪行を働いた彼女のために一本トピックを立てるほどの価値があるのかとも思うのですが、真澄の不甲斐のない対応や、彼女の生まれ育ちが特異だった点を鑑みれば、同情できなくもありません。では彼女のどういう点が同情を誘うのか、それとも全く同情に値しない人間なのか、検証してみたいと思います。

 

・紫織の貧血は糖尿病による合併症?

 

ネットで「貧血」の症状を検索してみると、糖尿病に伴う合併症で貧血の症状が出る可能性がある、という項目を見つけました。わたしは全く病気に関して詳しくないですし、おそらく貧血の症状が現れる病気はほかにも沢山あるだろうし、何よりも瘦せ型の紫織が糖尿病?とは最初は想像できなかったので、その点はあまり信憑性がないと思っていたのですが、面白いことに、作中に彼女がこの病気をニオわす描写がでてくるのです。

 

コミックス49巻で紫織は自〇を図ったうえ、気がふれてしまいました。家人が「まったく召し上がろうとなさいません。紫織お嬢様のお好きなものばかりお出ししているのですが…」と語る場面で、紫織が手の付けなかった食事の内容が描かれています。食べ物で正気に戻るとも思えませんが、意外と彼女にとって意味のあることだったかもしれません。出された食事は、メロン、苺、ブルーベリー、オレンジの輪切り、飲み物は不透明色なので、乳製品などの脂肪分が混ざった物?でしょうか。プレートにはソースのかかったオムレツ(もしくはオムライス?)らしきものに、ベーコンにスープまでついています。これをすべて平らげたら、糖尿病の人にとっていささかカロリーオーバーでしょう。つまり鷹宮家の人達は、紫織の好物だけど、普段食べる事を許されない高カロリーなものを出して、必死に紫織の気持ちを惹こうとしていたのではないでしょうか。(因みに、コミックス未掲載に真澄が病床の紫織に最中を差し入れています。和菓子は洋菓子ほどカロリーが高くない)

 

・紫織はストレスフルな”慎ましい人”

 

では、紫織の”糖尿病”を裏付ける描写が他に存在していないか、探してみましょう。

真澄はマヤに紫織の事を”慎ましい人”だと言っています。比ゆ的な意味ではなく、彼女が本当に糖尿病なら、文字通り沢山食べたくとも、体を動かしたりしたくとも、その気持ちをぐっとこらえねばならず、文字通り”慎ましい”生活を強いられていたのかもしれません。紫織は鷹宮グループのご令嬢です。良き婿を迎えなければならない義務がある。本人が望まなくとも、美しい外見を保つ必要があったのだと思います。彼女は体形や外見を維持するために、食事や行動を制限していたのではないでしょうか。長い間、薬を飲みつつも、食べたいものを食べられない生活をしてきたのかもしれません。故に、普段からかなりストレスフルな生活をこれまで送ってきたのではないでしょうか。


・病気と紫織の性格との関連性

 

紫織が最もストレスを感じる瞬間は、真澄が紫織以外のものに意識が向いている時でしょう。真澄がマヤと仲良く喧嘩しているのを目の当たりにした時、真澄が結婚の承諾を渋った時、真澄が身を呈して暴漢からマヤをかばった時、美術館に真澄が来れないと知った時、そしてアストリア号下船時に真澄が紫織を置いてマヤを伴って通り過ぎようとしたときーーーなど、心に大きく負担を負ったとき、紫織は立ち眩みを起こして倒れていますが、どうやら糖尿病による症状は貧血だけではないようです。ネットで調べてみると、悲しいかな、糖尿病の人はネガティブかつ短気になりやすいと書かれてありました。

 

水城が目撃した紫のバラ首チョンパ事件、花嫁衣裳汚染事件、指輪盗難事件をはじめ、気がふれてからも紫のバラをマヤに見立てて花切狭で突き刺すなど、マヤに対する件のイジメは、ひどく心が乱れた時に発生しています。真澄を失うかもしれない危機感が引き金になって、紫織はマヤが憎くて仕方がないという自分が止められなくなってしまったのかもしれません。ひょっとしたら、これらの行動は病気による症状の可能性もあったのではないでしょうか?

 

・ストレス過大になり症状は悪化

 

コミックス48巻のレストランのシーンの冒頭で、真澄は、ついこの前港でひっくり返った紫織に「もう加減はいいのですか」と、尋ねています。彼はこれから切り出す話が紫織にショックを与える事がわかっていたので、その衝撃に耐えられる程体調が戻っているのか、確認していたのだと思われます。「ええもうすっかり…!」と、明るく応じた紫織に、真澄は「そうか(薬を飲むなどして)回復したのだな」と、安心し、予定していた話を遠慮なくしたのだと思います。

 

しかし紫織は単に明るく振る舞っていただけで、それは一重に真澄に嫌われたくなかったからでしょう。破談を言い渡された後、コマひとつ使って”クラリ”と白目になっている姿が大きく描かれているからです。彼女はこの後、手首を切るという大それた行動に出ます。おそらく紫織は、真澄が紫のバラの人だと知ったことによるストレスで体調を悪くしていたのではないでしょうか。そこに爆弾が投下されてしまった。彼女の意識は超ネガティブに陥り、自〇を図るという最悪の行為に出てしまったのではないでしょうか。

 

・紫織の病気は改善していなかった

 

そもそも紫織は自分の病気の事をどう捉えていたのでしょうか。紫織は何らかの理由でストレスがかかる状況に陥ると、とたんに貧血の症状がでてネガティブ思考に陥っったり、異常に攻撃的になって、見境なく突っ走ってしまう症状を持っていたのではないでしょうか。それでも彼女は、真澄と付き合うようになってから元気になって出歩けるようになった、明るくなったと告白してるので、真澄と一緒にいると一時的に体調がよくなり、体調はほぼ回復したと安心していたのかもしれません。しかしこれらの症状をまとめてみてみると、根本的な完治などしていなかったのかもしれません。

 

わたしは紫織は、機嫌がいいときはすこぶる体調がよく病気を感じさせないが、ストレスがかかると一気に病が重篤化してしまい、他者にも自分に対しても、攻撃的になる事を止められなかったのではと推察しています。

 

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つづく

 

 

コミックス28巻のかの有名なプラネタデートで、真澄はマヤを諦めてしまいます。どうせ諦めるならちゃんと告白してからの方が、後々後悔しなくてすむんじゃないの真澄くん…、と思った読者も少なくなかった事でしょう。が、しかし、彼は告白するどころか傷つくあまり、すっかり心を閉ざしてしまいました。

真澄は見合い相手に夢中なのか、マヤに会う時間を作ろうとしません。いったい全体、いつまで彼はこんな態度を続けるつもりなのでしょうか。一度はっきりとフラれているというのに、それでも尚マヤに食いつくという、心臓に毛が生えているメンタルの持ち主=桜小路君の、爪の垢でも煎じて飲んだほうがいいのではないでしょうか。

コミックス28巻のプラネタデートから49巻の聖に諭されるまでのなが~~い間、真澄のヘタレぶり…じゃなかった、消極的な姿勢は永遠と続きます。はあ~~(←溜息)

 

第五弾です↓

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【ご令嬢をホステス扱いする速水真澄】

 

・真澄さん、本音が顔に出てますが…

 

真澄がマヤに出会う以前に、女性の影があったのかどうかは殆ど描かれていません。コミックス34巻で彼は「子供らしい遊びに背をむけ 同じ年頃の友人をつくろうとする努力もしなかった 行動のすべては仕事に結びついていた」と、過去を回想していますので、女性と付き合った事があっても、殆どビジネス絡みではないでしょうか。そんな速水真澄は、仕事人間で女には目もくれない、カタブツ、朴念仁、ガチガチ頭、唐変木な人間と世間から見做されています。マヤが見合い相手に優しく微笑んでいる真澄を見てショックを受けているのも、もともと彼に女性に優しい雰囲気がなかったのもあったのでしょう。真澄の元来持つ性質からなのか、それともビジネス上の理由からなのかわかりませんが、彼は仕事やそれに伴う人間関係で発生したストレスを女性で発散するという習慣が普段からないものと思われます。そんな女慣れしていない真澄が、女性と"おつきあい"というものをしたらどうなるでしょうか。

 

コミックス31巻"紫の影"の章で、真澄は紫織の方から腕に縋られています。紫織は真澄の腕に縋ることで真澄に対する好意の意思表示をしてるのですが、真澄は紫織の行為が意外だとばかりに驚き、明らかに嫌そうな顔になっています。おそらく本音が顔にでたものでしょうが、しかし30にもなる(芸能社の社長をやっている)大の男が女性から腕に縋られたぐらいで、本気でイヤがるものでしょうか。しかも彼は、その手を振り払う事ができていないのです。まだ付き合っているだけなのに、明らかに真澄は、紫織との付き合いにマウントをとれていません。顔に出るほどイヤでありながら、紫織に接近されてしまって拒絶もできないなんて、これが速水真澄でしょうか?彼女が大グループ企業のお嬢様だから?それとも別な理由があったのでしょうか?真澄と紫織との間に、どんなやりとりがあったのか、詳しくみてみましょう。

 

・真澄とご令嬢

 

コミックス30巻"紫の影"の章で、真澄は紫織と食事をしています。実際にはお酒を飲むナイトクラブのような場所で、ダンスもできるといった、上流階級の社交場のようです。真澄は紫織とサシで向かい合っていますが、真澄は上の空で目の前に紫織がいてる事すら忘れてしまっている。おそらく真澄はどうすればマヤに賞を獲らせる事ができるか、その事で頭がいっぱいだったのでしょうが、真澄は紫織に声をかけられて我に返ります。

「わたくしと一緒にいて退屈してらっしゃるのでは」と言う紫織に「あなたに余計な気をつかわせましたね、そんな事はありませんよ」と、スマートに流しています。(この頃の)紫織はバカではないと見えて口の上手な真澄に「きっと女性の扱い方がお上手なのね」と、一歩ひいたコメントを口にしています。しかし真澄は、紫織=ただの見合い相手とは見做してていません。この見合いは彼にとって"ミッション"なのです。相手に心を開かせ、気を許してもらわなければなりません。彼は、こちらの有利に物事を運びたい仕事上の利益を考えながら言葉を選んでいたと思われます。「ぼくがうまいのは役者とタレントの扱いだけですよ。子供の頃から仕事にばかり興味を奪われていましたからね。女優でもないあなたを前にしてとまどっているのはぼくの方です」物凄い殺し文句ですよね。わたしはこれは真澄の正真正銘の営業トークなのだと思います。こういった口説き方をいままで取引相手に限らず、男だろうが女だろうが、”あなただけは特別”と言った口調で相手を油断させ、骨抜きにしてきたのではないでしょうか。紫織は真澄の言葉に圧倒されているのか、照れて頬を染め、下を向いてしまいました。そして何を話していいのかわからない手持無沙汰を隠すかのように、ホールから流れてくるダンスの音色に気をとられているようなそぶりを見せます。

 

「少し踊りませんか」と誘う真澄に、学生時代体育は見学だったという紫織は踊れないと遠慮します。真澄は激しい運動ではないからと言って強引に誘い、ふたりは踊り始めます。さて彼はなぜ紫織をダンスに誘ったのでしょうか?コミックス47巻のアストリア号で真澄はマヤから「速水さん、ダンスお上手なんですね、知らなかった。お好きなんですか?」と尋ねられて「いや…仕事上で必要なときがあるからな。そのために昔習った。楽しいと思ったことは一度もない」と、答えてますので、少なくともこの時の紫織とのダンスは、真澄の中では"楽しくもなく仕事だった"という事になっているようです。故に彼は、決してダンスが好きで紫織を誘ったわけではなさそうです。しかし真澄は今、見合い相手を接待している真っ最中。紫織はダンスに興味があってほんとうは踊りたいのだけど、今までそんな機会はもてなかったと言っている。そんな相手にダンスの機会を与えてあげれば、こちらの株が二つも三つも上がるというもの。そんなことぐらい、真澄はちゃんとわかっていたのでしょう。

 

ホールで美男美女が踊る姿に、周りがざわめき始めました。大都芸能のカタブツで有名な若社長と、鷹宮紫織がつきあっているという噂は本当だったのね、と人々が噂を始めます。紫織は「みんながみてますわ」と言って、恥ずかしがっていますが、真澄は「あなたが素敵だからですよ」と、優しく持ち上げ、踊ることをやめようとしません。ここは上流階級の社交場です。芸能プロの社長である真澄が、"まわりから見られている"事がどういう事か、一番よく知っています。彼は、自分が紫織と付き合っている事、すなわち、大都と鷹通に結びつきがある事を、世間に知らしめたいのです。

「足がもつれそう…転んでしまったらどうしましょう」と言う紫織に真澄は甘い表情で「あなたを抱きかかえていますよ」と、答えます。まわりがざわざわと自分たちの噂話をしだす紫織は更に「真澄さままわりの方達が…」と訴えますが、真澄は「音楽だけをきいていなさい」と、答えるのです。「みんながみてますわ」(←しつこい。そんなに気になるならさっさと自分からやめりゃあいいのに…)と、周りからの視線にこだわる紫織に最後のトドメとばかりに真澄は「ではぼくだけをみていなさい」と、言います。紫織はここで完全に真澄に陥落してしまったのか、「ええ」と、答え、おとなしく真澄に従います。

 

と、こんな感じにマヤでない女とダンスを踊る真澄が数ページに渡ってフォーカスされています。マヤ不在の真澄の姿をこんな風に大きなコマを使って長々と描くなんて、明らかに今までにない展開ですし、違和感さえ感じられます。作者はここで読者に何を伝えたかったのでしょうか?

 

・やけっぱちな?速水真澄

 

この頃の真澄は、マヤに大失恋を喫して傷心中です。(別に振られたわけではないケド。真澄が一方的に失恋しているだけ)心がボッキリ折れて闇の中をさまよっているようなものでしょう。夢も希望も失い、もはや危ない橋を渡る必要もなくなってしまった。彼に残されたのは仕事と義父への復讐だけ。そんな傷心の彼の目の前に、美しくて病弱で世間知らずの箱入り娘が現れた。権力者の家の娘であるこの女を堕とせば、彼女の背後にある権力すべて手に入れることができる。その方が(マヤに告白するより)目的の到達に早くて楽ではないかと彼は、やけっぱっちな気分半分で、軽く考えたのではないでしょうか。案の定、紫織は、真澄のステレオタイプな口説き文句にも関わらずアッサリと騙されて…じゃなかった、絆されてしまいました。真澄は、男性である自分(大都)が、女性である紫織(鷹通)をリードし、掌握している図を、世間に見せつけて、さぞ気分がよかったのではないでしょうか。

 

とはいっても、たとえ仕事とはいえ、マヤ以外の女と積極的?に仲良くするなんて、本当のところ真澄は紫織の事をどう思っていたのでしょうか。この時、踊る二人を背後から見ていた秘書の水城が、この時の自身の"不安感"をこう独白しています。(真澄さま…これでいいんですの…?あなたはこれで…自分の心をだますおつもりなの…?それでいいんですの真澄さま…!)見た事のないような水城の心配そうな顔。まるで自分の事のように苦しんでいるではありませんか。何が水城をここまで言わせているのでしょうか。

 

わたしは真澄は、ただビジネスだけで紫織にやさしくしていたわけではなく、彼女に強い同情心をもってしまったからだと思うのです。真澄は(そしておれも自分を知らなかった。あの少女に出会うまでは…だがもう遅い…)と、独白しています。真澄は、自分というものを知らなかった故、マヤに対して取返しのつかない事をしてしまい、マヤ自身をも失っています。(実際には真澄が勝手に思い込んでるだけだけど)目の前にいる病弱なこの女性もまた、自分と同じく世間知らずで、自分の事をよくわかっていない。真澄は彼女を自分を重ね合わせて同情し、助けてあげたい気持ちになってしまった、喜ばせてあげたくなってしまったのかもしれません。結果は功を奏し、紫織は真澄に自分は「子供の頃から病弱なゆえ、内気で外に出るのもイヤで閉じこもっていたが、真澄と出会ってからほんとうに明るくなった、笑顔がおおくなった」と、喜びの言葉を述べています。紫織は非常に満足して元気になってくれたようです。病弱で世間知らずで、そして美しい女性を自分の力で満足させる事ができて、真澄は再び自分の存在意義を感じる事ができるようになったのではないでしょうか。一見、紫織が真澄に救われたように見えますが、本当に救われていたのは真澄の方だったのかもしれません。紫織のお陰で、真澄は、マヤの"あの言葉"でズタズタにされてしまった、男のプライドを取り戻すことができたのだとわたしは思います。

 

・もてあそばれた箱入り娘

 

しかし真澄は紫織に単に"親切にした"だけだったのでしょうか?コミックス35巻で真澄は紫織の事を(あのひとのやさしさに親切にこたえてきた)と、独白していますが、これは、彼の詭弁だったとわたしは思います。決して親切心だけだったわけではなかったはず。真澄とダンスに興じる紫織は頬を染めて、明らかに真澄に恋に落ちていますが、わたしが注目したいのが、紫織とダンスをしていたこの時の真澄の、憂を秘めたなんともいえない、満足そうな微笑みです。マヤでない女にこんな顔を向けるなんてストーカーをしていた頃の真澄を思い返せば考えられないでしょう。そのうえ、この頃の真澄の目の中にはコミックス後半では描かれなくなってしまった星がまだ存在しており、中年に入りかけの、それでいてまだ青年の香りの残る色香が漂っていて、非常に美しく表現されています。紫織を相手にしている真澄をなぜここまで美しく見せる必要があったのでしょうか?この場面にどんな意図が隠されているのでしょうか?

 

真澄は自分から人を愛したのはマヤだけです。ビジネスの成功を得るため、自分を愛するように仕向けることはあっても、自分から人を愛した事のない人間なのです。この時彼は紫織をもてあそんで満足していたのだとわたしは思います。自分の手のひらの上で踊る紫織を見て楽しんでいた。コミックス49巻で真澄は狂気に陥った紫織に対し(すべて…おれのせいだ…!やさしく聡明だった彼女をこんなふうにしてしまったのはおれのせいだ…!)と言って狂った紫織に対して責任を深く感じています。親切心だけの行為ならここまで罪悪感を感じないでしょう。真澄にはもちろんその自覚はちゃんとあったのです。水城はそれを見抜いていた。そんな事をして自分の心を騙してはいけないと、彼女は真澄の事を案じて(自分の心をだますおつもりなの…?それでいいんですの真澄さま…!)と、言っていたのだと思います。

 

・ご令嬢をホステス扱いする速水真澄

 

話を冒頭に戻しましょう。コミックス31巻"紫の影"の章で、真澄は紫織から腕に縋られてしまいました。結婚を断れない相手、かつ、愛すことのできない相手から必要以上に好かれてしまった。さて、紫織から好かれて果たして彼は嬉しく思ったでしょうか?もちろん、これは真澄の期待通りの結果だったと思います。真澄は紫織を自分に夢中にさせたかった。しかしそれはあくまで”真澄が紫織をリードする”という条件の上での話です。女の方から縋られたり、要求されたり、自分を振り回したりなど、そんな事は彼の人生には(マヤ以外に)あり得なかった。彼の辞書にはこれまでなかったのだと思います。

しかし紫織は勝負に打ってきました。真澄が想像する以上に紫織は彼に接近してきたのです。ボディタッチは、アストリア号で紫織がダブルベッドを準備したのと同じ意味ではないでしょうか。彼女は心の距離を縮める方法として、体の関係を望んできたのだと思います。

ここまでさせてしまったのは真澄の失態でしょう。たとえ親切心でダンスの相手をしたとしても「あなたを抱きかかえてあげますよ」だの「ぼくだけをみていなさい」などとまで言う必要はあったでしょうか?こんな余計な事を言ってしまったのは、一重に真澄の心の弱さであり、相手の事を考えない冷たさであり、後先を考えない思慮の浅はかさからでたものではないでしょうか。真澄が、後先を考えずに行動するなんて信じられませんが、それぐらいこの時の彼は普通ではない状態になっていたのかもしれません。しかしそれによって、彼は、初心な紫織の心を慰みものにしてしまった。金で解決できる玄人なら、こんな発散方法もアリなのでしょうが、相手は自分以上に男性経験のない権力者の家のご令嬢なのです。このあたりが真澄の女慣れしてない所なのかもしれません。

 

紫織の腕を振り払うことはできなくなってしまい途方にくれる真澄。マヤに失恋して、激しく壊れている様子が伺えます。優柔不断だの、ヘタレだのと、不名誉なあだ名で呼ばれてしまう原因がここから始まっているような気がします。

 

・コミックス30巻<”「嫉妬だと…?あの子が俺に…?まさか…?」”から”(そしておれも自分をしらなかった あの少女に出会うまでは…だがもう遅い…)”まで>

真澄30歳、マヤ19歳

 

狼少女の章から紫のバラの人バレまで、真澄とマヤとの未来に希望が持てなくなるプロセスが延々と続きます。マヤは芝居に集中して真澄の事を思い出さないし、思い出しても、「あんなやつのことなんか…!」と否定してろくに考えもせずすぐに忘れてしまうのです。そして真澄がマヤのためにした行動をすべて悪意ととってしまうという単純さ。

マヤは「1パーセントの可能性に賭ける」と常々口にしているわりには、劇場も初日もキャストも決まらないという危機的な状況において、自ら何の手立ても取っていません。そればかりか、黒沼の開いたオーディションを呑気に楽しんでいます。深刻になれとは言いませんが、はた目からみれば「マヤあんた、ホントに芸術大賞獲る気あんの?「紅天女」を演る気あんの?」と見えはしないでしょうか。

真澄はこれまで非常に分かりにくい応援をーーー少なくとも単純なマヤには気づかない応援をし続けてきましたが、「忘れられた荒野」が芸術祭の賞の対象になったのは、真澄のしかけた「イサドラ!」のパーティーのデモンストレーションが功を奏したのは素人目でもわかることではないでしょうか。(少なくとも黒沼はよくわかっている)「理由は自分で考えてごらんなさい。真実が見えてくるかもしれないわ」と、水城から親切に忠告されているのに、「わからないわどういうことなのかしら…?」と、相変わらずとんと考えつかない様子。

マヤに賞を獲らせるため頑張っているのは、真澄一人だけ。しかしマヤは自分に降りかかってきた(真澄がマヤのためにお膳立てした)幸運は、すべて偶然の産物として片づけてしまう始末…。理解してもらえない真澄は、散々罵られてほとんど壊れかかっています。「真澄なんで、ここまでしてマヤの事が好きなの…?いい加減あきらめちゃいなよ」という読者の声が、どこともなく聞こえてきそうではありませんか。。それでも尚、真澄は「おれがあの少女にひかれているのはあの魂だ…生命のありったけをかけているあの情熱だ…」と、言っておりますので、マヤにどれほど嫌われても、マヤの熱い情熱をどこまでも愛し続ける覚悟の模様。真澄って本当にスゴイですよね。。

 

・真澄に接近する台風

 

結局「どうかお幸せに!」と、ヒスを起こして真澄の元を立ち去って以来、残念ながらマヤが真澄に何かしらこれについてアクションを起こすことはありませんでした。同様に真澄もマヤが"嫉妬"しているかもしれないと思いつつも、マヤと接触して何かしら事実をつかもうとはしていません。そんな折、大沢事務所で新たに手掛けらる「イサドラ!」がこの秋大都劇場で上演する事が決まります。真澄は部下から「企画としてはなかなかのもので話題性はあります」と報告を受け、別段顔色も変えず「よかろう」と判をついてます。同じ時期に、真澄は月影の行方が判明した事を、部下から報告を受けています。おそらく春のアカデミー授賞式まで紅天女の候補者と会うつもりがないことを、ここで聞いたのでしょう。となると、「ふたりの王女」の時のようにマヤは、大事な舞台で月影の指導を受けることができないわけです。真澄は(マヤ…このままではきみの道は険しいことになりそうだな…)と、言っていますので、益々困難な状況に陥りそうなマヤになんとか賞を獲らせるために、この時から真澄はマヤに仕掛けようとしている"計画"を練っていたのかもしれません。

 

さて何もしらないマヤは亜弓から電話で、月影先生の行方をどうやら真澄がつかんでいるようだと知らされます。それを聞いたとたんマヤは(速水さん…わかったら真っ先にあたしに知らせるっていったのにあの冷血漢…!(中略)忘れているなんて言わせない…きっとまたなんかたくらんで…かくしてるんだわ)と、息巻いて大都芸能に単身乗り込み会いにいきます。真澄のお見合い事件以降、マヤの方から真澄を呼び止める、会いに行く、接近する、、といったシーンがだんだんと増えています。これもマヤの心境の変化でしょう。真澄が結婚するかもしれないという焦りから無意識に真澄に会いたいという欲求が増えているのではないでしょうか。

到着した大都芸能で真澄は会議中で会わせてもらえません。会議が終わるまで待つというマヤを回りの社員たちが追い出そうともみあいます。マヤは壁にたたきつけられ、床に倒れてしまいます。そこで真澄の見合い相手と出会うわけです。

 

・豆台風とご令嬢

 

倒れ込んだマヤの目前に現れたのは、真澄の見合い相手の鷹宮紫織でした。マヤはこの美しい女性がすぐさま真澄の見合い相手だと理解します。ニブいマヤには珍しく感がいいですよね。(あのひとだ…!週刊誌に速水さんと一緒にのっていた…あのひとだ…!このひとが速水さんのお見合いの相手…!)マヤは驚いて言葉を失っていますが、もし、真澄に対する気持ちを自覚していれば、この時の衝撃はこんなものじゃなかったでしょうね~。真澄は部屋の外で起こっている騒ぎを聞きつけて出てきます。騒ぎの原因がマヤであると知って真澄も非常に驚いているようですが、話の内容が月影の事だと知ると、水城にマヤを応接室に連れていくよう事務的に命じます。水城に「社長はあとで話をきくそうよ」と言われているのに、マヤは真っ赤になって「逃げたら承知しないわよ!」と真澄にくいつかんばかり。(もしここにマヤの深層心理を説明する吹き出しがつけることができたら、どんなセリフでが相応しいでしょうか?「わたしというものがありながら、よくもこんな年増な女とお見合いなんかしたわよね!」と、わたしなら書きます(笑)真澄は「大丈夫 台風の直撃をうける覚悟はできているよ」と笑ってマヤに応じていますが、紫織と視線が合うと意味深に言葉をとめます。この時の直立不動で微笑みながら真澄を見つめている紫織ちょっとコワイですね。監視しているような雰囲気すらあります(汗)

 

・「速水さんは…?」

 

その後マヤは応接室で真澄の見合い相手について聞かされます。鷹宮紫織とは日本有数の企業グループのトップである、鷹宮天皇とあだ名されるほどの権力者の家のご令嬢である事、真澄の義父である速水会長がこの縁談に賛成している事など、マヤとは天と地ほどの違う世界に住まう人間である事を知るのです。「速水会長は昔 この鷹宮会長にお世話になったことがあるらしくて恩人だときいているわ。もし鷹宮会長からの頼みごとがあれば死んでも断れないでしょうね。なんにせよ真澄さまが紫織さまと結婚なされば大都芸能にとってこんな強力なことはないわ。だから速水会長は大乗り気なの」水城は大都芸能の社員として、真澄のこの結婚が大都にとってどんな意味をもたらすものなのか、マヤに説明します。マヤは、今の説明で真澄がどんな状況におかれているのか理解したようですが、マヤにとって興味があるのは真澄の気持ちでしょう。「速水さんは…?」と、彼が今度の結婚話をどう思っているのか尋ねています。水城は即答することができないばかりか珍しく狼狽えています。彼女は真澄が本音を偽って見合い相手を受け入れようとしていることを知っていますが、なぜそんな気持ちになったのか事情がわからないので、マヤにきちんと説明できない。「大都芸能にとってプラスになる女性を選ぶと以前からおっしゃっていられたわ」と、だけ返答しますが、その言葉にマヤは何も言えなくなってしまったようです。少なくとも水城は"真澄さまは紫織さまを愛しているから結婚しようとしているわけではない"と、言ったつもりだと思いますが、マヤはあまりいい意味で受け取らなかったかも。「そう…そうよね…大都芸能のためならなんだってやるわよね。仕事のためなら…速水さん…」と、答えています。これは、愛していない人間と仕事のために結婚するなんて軽蔑するわ、という意味なのでしょうか?それとも、真澄の選んだご令嬢に自分は遥か及ばない事を自覚したマヤの負け惜しみでしょうか?

 

・「おれもその1%に期待することにしよう」

 

その後会議の終わった真澄が部屋に現れると、暗かったマヤの表情がまた元に戻ります。「ん?どうした?やけに元気がないな。さっきまでの威勢のよさはどこへいったんだ?」(真澄も気の利かない男ですね!マヤは水城から紫織の事をここで聞かされて、動揺していたからに決まっているじゃないですか~)「いま顔をみたら急に出てきました」マヤは、赤くなって目をつりあげますが、真澄の顔を見たら何か文句を言わないと落ち着かない習性になってしまっているのではないでしょうか。朴念仁真澄は「それでこそいつものきみだ」と、笑っていますけどマヤの乙女心など少しも分かっていない様子。

「月影先生の居場所しっているんでしょう 速水さんおしえてください」「誰にその話をきいた?」「誰でもいいでしょう?どうして月影先生の居場所をかくしているんですか?」真澄は相変わらずマヤが怒るような話の進め方をしていますよね。マヤも単純ですから、煽られるとすぐに声のボリュームが上がるようです。「誰からきいたかだいたい察しはつく」真澄はマヤが亜弓と近頃仲がいいことを知って(そして気に食わなく思って)ますので、マヤが亜弓から話を聞いたと感づいているでしょうね。

真澄は自分の部下が月影を探し当てた事、月影が紅天女のふるさとに源造というじいやと一緒にいる事、そこで健康に暮らしている事、その山奥の紅天女のふるさとがどんな素晴らしい場所であるかを語ります。「月影先生は自分の居場所を公表するのはやめてほしいとおっしゃったんだ。もしひとに知られることがあれそこを出て姿をかくすとまでいわれたらしい。そしてきみにも居場所は教えないでもらいたいと強くいわれたそうだ。来年の春まではな。わかるだろう?来年の春までは…だ」マヤもまた、月影が来年の春まで月影と会えない事の重大さを理解したようです。(月影先生はそれまであたしに会う気はないんだわ。もしそれまでに賞をとれなければ「紅天女」は亜弓さんにゆずられる。永久に幻になってしまう…!)と、焦りを露にしています。

 

「どうやら「忘れられた荒野」の狼少女ジェーン役ですべてが決まりそうだな」真澄がこの時、ソファーの縁に座ってソファーに腰かけているマヤを上から見下ろしている構図がいいですね。まだ精神的にマヤを掌握しているという真澄の自信の表れかもしれません。「ところできみはまだ「紅天女」への1%の可能性を捨てないのか?」「ええ…」「ではおれもその1%に期待することにしよう。きみを信じているよ」マヤを射るような真澄の真剣な眼差しにマヤはどきんと顔を赤らめています。「そ それはどうも…!」(どうしたんだろ…?今速水さんの言葉が真剣にきこえた…あたしのこと「紅天女」からはやく手をひけばいいと思っているはずなのに このひとが本気でそんなことを思うはずないのに)これは真澄がマヤに「きみの演技がおれを感動させたなら、おれはきみに臨むだけのバラの花を贈ろう」と言ったのと同じシチュエーションですね。しかし今回は、真澄はバラの花を贈るとは言っていないんですよね~。バラを贈ってもマヤに何の効果もないことを、彼は学習したのでしょうか…

 

・水城の不安感

 

さて事の成り行きを見守っていた水城は「…」と言って何も言葉を発することはありませんでしたが、何か一言言いたそうです。未だマヤに執着がある真澄の態度が解せないのでしょうか。秘書としては「速水社長は北島マヤを有力な「紅天女」候補女優として扱っているのから構っているのかしら?」と、考えていたのかもしれませんし、真澄の本心がどこにあるのかを知っている人間としては「未だマヤに未練があるの?あなたは紫織さまと結婚するつもりでいるんじゃなかったんですか?」と、言いたかったのかもしれません。ひょっとしたら水城はこの頃から、真澄の紫織に対する曖昧な態度、マヤに対する執着が、後々おそろしい大惨事をもたらす事を予感していたんじゃないでしょうか。コミックス48巻で、真澄から「婚約破棄」を言い渡され紫織は非常に傷ついていますが、「結婚式のキャンセルと、鷹宮グループとのプロジェクトとのキャンセルによる大都の損失を想定するシュミレーションをしろ」という恐ろしい指令を受ける事になった水城こそ、一番の被害者だったんじゃないかとわたしは思います。この時ほど水城は「こんな事になる前に、なんでわたしの言う事をももっと早く聞かなかったの」と強く思ったに違いありません。

 

・「紅天女」の故郷では夜は降るように星がみえる

 

話が終わったのを見計らったからのか、それとも紫織がせっついたのか、部下が紫織が待っていると真澄を呼びに来ます。「あ…どうもおじゃまさまでした」頭をさげていつになく礼儀正しいですけど急にお行儀がよくなって、マヤったらどうしちゃったのかしら?「どういたしまして 未来の紅天女になんのもてなしもせず 失礼を…」そんなマヤの丁寧なあいさつに応じる真澄。「速水さん なんかあたしのことバカにしているでしょ」マヤまた赤くなって真澄に文句。「いやきみの勇気を尊敬してるだけだよ」対して真澄は楽しそう。「なぜついてくるんです!?」会社の廊下を並んで歩くふたり。「おれも会社を出るんだからしかたないだろ」しかたなくはありません。真澄はマヤと一分一秒でも一緒にいたいのです。「何階ですか?」エレベーターの中でボタンを押そうとするマヤ。「1階にきまってるだろ。それともきみは上へあがって屋上から帰るつもりか?」「できればそうしたいです」「羽がなくて残念だったな」(最悪…)密室のうえ上下に高速で動く乗り物だからでしょうか、「ガラスの仮面」では物事が大きく転換する直前や、印象付けたい出来事になぜかエレベーターのシーンが使われる事があります。このシーンの直前に、真澄は聖とエレベーターの中で密会をこなした後マヤと意味深な出会いを果たしていますし、46巻の北斗プロの暴行シーンの直前にも真澄は紫織とエレベーターを使っています。真澄はマヤに「上へあがって屋上から帰るつもりか?」と冗談めかして言っていますが、実のところ本音が漏れていたのではないでしょうか。階下に降りれば紫織が待っています。真澄は、義父が引いたレールの上を歩む道(紫織と共に生きる道)なんかより、屋上に上がってマヤと一緒にどこかに飛んでいけたらどんなにかいいかしれないなんて、そんな風に思っていたんじゃないでしょうか。

 

「「紅天女」のふるさとってきれいな所なんでしょうね」以前のマヤならこんな話題を真澄に振る事はなかったでしょう。不発に終わったように見えるあのプラネタデートの経験が、マヤに真澄と共通の想い出をここで思い起こさせています。「そうだな 空気が紅に染まるほどの花…夜には降るように星がみえるらしい。プラネタリウムでしかみられないと思っているような星が多くみられるそうだ…」真澄もわかっているのか彼は"プラネタリウム"というワードを使ってマヤに星空を連想させようとしている。(速水さん…プラネタリウム…満天の星…満天の星…!)効果はてきめんで、真澄とマヤは同時に同じ星空を想像している模様。マヤはうっとりとして「すごいでしょうねきっと」なんて呟いてます。「ああ」と同意する真澄も同じでしょう。「「紅天女」のふるさと いつかいってみたいわ」「おれもだ」おおお、示し合わせたわけでもないのに、ふたりとも共通の認識と目的を持っているではないですか。(←さすが魂の片われ)(速水さん…あたしなにしてんだろ…このひととこんな所でなんだか仲良くしゃべってる)と、マヤは真澄との会話に納得がいっていないようですが、自分から話題をふっている事に全然気づいていないのでしょうか。そこでエレベーターは1階止まり、マヤは夢の世界から現実に引き戻されます。「あ…あたしあなたといっしょになんかいきませんからね!!ぜったいに!」尋ねられてもいないのに必死に否定するマヤ。「誰がきみといくといった!?こっちだって子供のおもりはごめんだ」「あたしもう子供じゃありません!」「おれはきみが中学生の頃から知ってるんだぞ!」「ちょっとぐらいおじさんだと思っていばらないでください!」「きみこそ少しは年下らしくしたらどうだ!?」「よけいなお世話です!」

社員は鬼社長が女の子と喧嘩しながら歩いていると驚いていますが、真澄のこの世で一番の楽しみはマヤと楽しく口喧嘩することではないでしょうか。46巻で真澄と共にエレベーターで階下に降りてくる途中、紫織は(紫織は真澄さまのいきたいところへ…真澄さまのお好きなことを御一緒に…)と心の中で呟いている場面がありますが、このシーンを読んだ後に30巻のこのシーンを改めて読んでみると、紫織が悩ましく考えていた同じ場所で、真澄がマヤと楽しそうに喧嘩をしているのが、なんとも皮肉ですよねえ。

 

ふたりはロビーまでやってきました。階下で待っていた紫織の視線に気づいたマヤは、気まずそうに会話を止めます。その後具合の悪そうにしている紫織の介抱をする真澄を見ていられないとばかりにマヤは「あ…あの…じゃ あたし あたしこれで…」と言って、まるで逃げるようにその場を去ろうとします。しかし真澄はここでマヤを引き止めるのです。「待ちたまえ。プラネタリウムで星をみるのはきみと一緒にいったあれが最後だ。おそらく永久に…」そう言って、彼はマヤの返答も待たずに、紫織と共に車で去ってゆきます。なんだかこれ、真澄の最後の"告白"のように聞こえますが、マヤでなかったら真澄の気持ちが今でもマヤと共にあって、それをマヤに伝えようとしちることぐらい感づきそうなものですよね。が、相手がマヤなだけにやはり何も伝わらない。(今の言葉はどういう意味ですか速水さん。プラネタリウムで星をみるのはあたしと一緒にいったのが最後ですって…もういくことがないなんてどういう意味ですか…?)マヤは彼が何を言いたかったのか分からず、立ちすくみます。前回プラネタデートで別れ際にも彼は何か言いたそうにして、結局何も言わずに去ってしまいましたが、本当は今口にした事を言いたかったのでしょうか?

 

これ以降、真澄とマヤの楽しい漫才シーンはあまりでてきません。その代わりなぜか、マヤと英介の漫才シーンが増えてゆきます。そしてかつてマヤが真澄を尻に敷いていたように、今度はマヤが英介をふりまわすようになるのです。「ガラかめ」で極悪人として知られているあの英介が、です。この先、「あの子が大都と組まなければ北島マヤを潰せ…!」なーんて英介はカッコつけて真澄に命じる事になるんですけど、そう簡単に話は進むのでしょうか?真澄がマヤにハマってしまったように、英介もまたマヤから抜け出せなくなるんじゃぁ…

・コミックス28~29巻<”「あんなやつのことなんか…!」”から”「嫉妬だと…?あの子が俺に…?まさか…?」”まで>

真澄30歳、マヤ19歳

 

・ヘソを曲げてしまった真澄、水城の忠告耳に入らず

 

マヤのナゾな真澄への突撃電話?は、真澄が計画したプラネタデートと同じく、相手側に何も伝わらない結果となりました。(残念…)その後真澄は演劇界の大立者が集まるパーティーで黒沼龍三と顔を合わせます。黒沼が「忘れられた荒野」という狼少女の芝居をすると聞き、真澄は彼を連れ出し、今手掛けている芝居について尋ねます。対する黒沼は愛想よく真澄の質問に応じます。「おれは演出家は名指揮者であれと思っているんだ。役者は楽器だ。いい演奏をするにはいい楽器が必要だ(中略)狼少女を演じている少女はおれがやっとのおもいで探しだした楽器だ。なかなかの名器だ。(中略)北島マヤという子だが ああご存じでしたか?」

 

ご存じも何もないでしょう。マヤの事を始終考えていながらも、今の真澄にとって、名前さえ聞くのも本当はツラかったはず。マヤはこの時の真澄にとって、もはや手の届かない高嶺の花、永遠に失われた夢のような存在になってしまっていたのです。(おそらく彼は白目になりながらそんな事を考えていたハズ…)「ええ…よく知っています」と、彼は頷きますが、本音ではそんな風に答えたくなかったに違いありません。「北島マヤはまだ十三歳の少女の頃にオレが見つけ、オレが育てた類まれない高い才能を持った素晴らしい女優です」なんて、自慢したかったんじゃないでしょうか。

 

真澄が黒沼に近づいたのは将来、「紅天女」の演出家候補としてこの時から目をつけていたからで、仕事上の理由もあったことでしょう。しかし側から見ていた水城は、真澄はマヤの情報を仕入れたがっている、まだマヤとの接点を持ちたがっていると見たようです。黒沼が去った後、水城は真澄に近づき、一輪のバラを手に取りながら話しかけます。(余談ですが、水城は以前にも、マヤに紫のバラの人を騙って、タイミングよく紫のバラを一輪マヤに贈ったことがありましたよね。このバラ、パーティー会場から調達してきたのでしょうか?まるで手品師のような手際のよさですよね~)

「このままでよろしいんですの真澄様」「なんのことだ」「この紫のバラのことですわ。いまも気にかけていらっしゃいましたわね。どうなさいますの?噂を真実にしてしまうおつもりですか?」水城は見合い相手と真澄との事が週刊誌に書かれている事を言っているのでしょう。当然それもマヤの目にふれているはず。マヤに誤解させたままでいいのですかと、尋ねているのです。しかし真澄は、水城とこの件について話をする気はないようで「きみには関係ないことだ」と言って、答える事を拒絶します。以前はもっと踏み込んだ事まで答えていたのに、まるで人が変わったかのように暗い顔になっている。

 

水城は真澄が計画したプラネタデートの事も、その時何が起こったのかも、彼がその時どれだけ傷つき、絶望したのかも知る由もないので、真澄がなぜこうも大人しく見合い相手を受け入れる気になったのか理解できないのでしょう。そして彼女は、マヤとの関係が改善しない事を憂いている。しかし水城は、大都芸能の社長秘書という立場上、「きみには関係ない」と言われれば、それ以上彼のエリアに踏み込むことはできないのです。上司から信頼されていないと感じたのか、寂しそうに「そう…ですわね 秘書であるわたくしには関係のないことですわね」と、答えるしかありませんでした。

とはいっても水城は前回マヤと遭遇した時、真澄のお見合いが決して無関係な事ではないとマヤが感じていた姿を見ています。彼女は本当は、何とか橋渡しをしたいのです。真澄に気づいてもらいたいのです。水城はバラを真澄の背広の襟にそっとさすと「真澄さま いつまでも信号は赤ではありませんわよ」と、一言助言します。バラをマヤに例えて「今のマヤの心はあなたに向いていますよ。それに気が付いて」という意味なのでしょうか。

真澄は意外な事を口にする水城のセリフに驚き「なんだと!?どういう意味」と、尋ねますが、「答えは自分で考えなさい」とでも言うように、颯爽と去っていきます。

立ち尽くす真澄。彼は水城の今の言葉で、先般のマヤの不可思議な電話を思い出したのかもしれません。マヤの態度がいつになく違っていた事が、彼の心に何か訴えかけていたのでしょうか。

 

・ニアミス事件

 

さて「忘れられた荒野」の稽古が本格的に始まり、マヤは紫のバラの人からバラと化粧ケースのプレゼントを贈られます。あんな出来事があっても、真澄の紫のバラの人としてマヤを応援する気持ちが少しも萎えてないことがわかります。嬉しそうに花に顔をうずめるマヤ。マヤは、プレゼントのお礼に今まで自分が出演した舞台アルバムを作り、聖を呼び出して、紫のバラの人に託します。(このアルバムがあの後、あんな使い方をされるとは…)

 

大きな商業施設の地下の喫茶店でアルバムを渡した後、マヤは聖と別れますが、聖に託した紫のバラの人への宛てたメッセージカードが落ちていた事に気が付き、マヤは聖を追います。人気のない駐車場のエレベーターに乗り込む聖。彼はここで真澄と秘密の会合の予定があるのです。

エレベーターの中で予定をこなし、聖と別れて地下駐車場に降りてきた真澄は、地下駐車場で降りてくるかもしれない聖を待っていたマヤと遭遇します。(もしこここでマヤが聖に追いついていたとして、聖の乗るエレベーターに乗りこんでいたとしら、どうなっていたでしょうか。聖に手紙を手渡し、48階まで行って、下りる途中で45階から真澄が乗り込んできたとしたら…?)

到着したエレベーターのドアが開くと、そこに立っていたのはマヤでした。今しがた聖にマヤの事を聞かされ、マヤの事を考えていたのに、いきなり本人が現れたのですから、真澄は心臓が飛び出るほど驚いたのではないでしょうか。

 

マヤの真澄はプラネタデート以来、初めて顔を合わせた事になります。真澄はあの時の"事件"で、人生を大きく変える重要な決断をしているというのに、マヤは全くといって以前のままです。「久しぶりだな」という真澄にマヤはいつもの調子。「別になつかしくありませんけど」「狼少女の稽古はどう?きみなら心配ないと思うが…」「ええ 噛みつく稽古がだいぶうまくなりました」「ところで最近大沢事務所でなにか変わったことはないか?」真澄は、聖が自分と会う直前に聖がマヤと会っていたとは思いもしなかったようですね。あやうく正体がバレそうな事を質問しちゃっていますが、相手はマヤなだけに(え…?なんだろう聖さんと同じことをきいてる…)と、訝しく思うだけですんだようです。真澄は月影の行方について、尾崎一連が昔過ごしたという「紅天女」の故郷をあたろうとしている事をマヤに告げると「くわしいことがわかったら一番にきみにしらせるよチビちゃん」と言って、去って行こうとします。この辺もなんとなく真澄がマヤと距離を取ろうとしていますよね。以前の真澄なら、せっかくだから車で近くまで送るよ、ぐらい言いそうなものなのですが。しかしマヤは、今を逃せばチャンスはないと思ったのか真澄を引き止めます。

 

「あの…あの…速水さんあの…お見合いしたってほんとうですか?」ようやく電話で質問したかったことを口にすることに成功。しかし当の真澄は、マヤから見合い相手のことなんぞ尋ねられたくなかったことでしょう。「週刊誌で噂されていたのはその女性?」「そうだよ」冷静に答える真澄。「ふ…ふーん 週刊誌の小さな写真をちょっとだけ見ただけだけど とてもきれいなひとみたいね」何気ない風を装うとしていますが、両手をもてあましながら、それでも視線をあわせられれないマヤ。「まわりはみんな美人だというね」「そ…!よかったですね。でも冷淡でいじわるで仕事虫の速水さんとつきあえるなんてどんな女性かしら?」うう~ん、たとえ真澄の事を冷血仕事虫だと普段から罵っていたとしても、今の質問はかなり失礼ではないでしょうか。真澄は自分がマヤから罵られるのは仕方のないことだと諦めているでしょうが、今の言い方は見合い相手をも侮辱することになるのでは…?マヤの態度に怒ったのか真澄の目は座っています。(のようにわたしには見える)「忍耐強くてとてもやさしい女性だよ」白目になるマヤ。真澄は厳しい目の色を変えません。マヤは硬直したまま動けない。「速水さん…そのひとと結婚するんですか?」震える声。「そんなこと聞いてどうする?」この真澄の言い方、マヤと自分は全くのビジネスライクな関係なのだと、線引きするような答え方ですよね。「別…に もしそうだったらお祝いしなきゃと思って…」(なに バカなこといってんだろあたし…!)と、本心と違う事を口にしてイラついていますが、またしても地雷を踏んだことに全く気が付いていない鈍感なマヤ。真澄にとって、見合い相手との関係をこの世でもっとも祝われたくないのがマヤでしょうに。「それはありがとう。だが残念なことにまだ婚約もまだだ。彼女はぼくにはもったいないくらいの女性だよ」

 

・イヤミ虫発動、速水真澄

 

おそらく「忍耐強くてとてもやさしい女性だよ」は、「見合い相手は、きみのように短気ではなく冷たい人間でもない」という意味でしょうし、「そんなこと聞いてどうする?」は、「オレのプライベートがキミと何の関係がある?」と、言いたかったのでしょう。「彼女はぼくにはもったいないくらいの女性だよ」は「オレは世界中の女性から、キミと同じように嫌われていると思っているようだが、オレにだってオレを評価してくれる女性がいるんだ」と、いう意味ではないでしょうか。真澄は、マヤは自分を憎んでいるがゆえに、自分が幸福になる事が許せないので、自分の見合い相手の事を知りたがるのだと思ったのかもしれません。

今のように真澄の事を少しでも知りたいと思わせる質問を、プラネタデートの時にしていれば、真澄のマヤに対する態度もかわっていたでしょうが、マヤは、「相手が速水真澄なら何を言ってもいいんだ、彼は極悪人なんだから」と、彼を軽く扱ってきたために、逆に真澄から強い怒りをかってしまったようです。マヤが評する通り、ビジネスにおいてもマヤとの関係においても、真澄の得意技はイヤミと皮肉です。彼は得意のイヤミを発動し応戦したのでしょう。

 

一方マヤは、速水真澄と言う人間は、ありとあらゆる人間に対して不誠実だから、自分にも平等に冷たいのだと思っていたふしがったのではないでしょうか。しかし、今の真澄の発言で、実はそうではなかったのだと知ってしまったのだと思います。「そ そう…きっととてもすてきな女性なんですね。このあいだふたりでいるところをみました。あの…後ろ姿だけど…」「チビちゃん…?」「速水さんのあんな笑顔はじめて…」震えながら青くなるマヤ。マヤはこんな風に思ったのではないでしょうか。

真澄は、ごく普通に女性に愛される、または愛する人間でもあったのだ。だから彼はその女性を褒めるのだ。あの笑顔がそれを証明しているのだ。彼は自分が思っているような極悪人ではなく、普通に人を愛せる別な一面もあるのかもしれない。自分は個人的に真澄から憎まれているから、ひどい仕打ちを受け続けてきたのだ…と。

 

しかし真澄は、なぜマヤが震えているのかわからない。ちょっと応戦しただけの事。いつものようになぜ軽口をたたいてやり返そうとしないのでしょうか。「どうした?顔が青いぞ」真澄は様子のおかしいマヤに手を差し伸べますが、マヤはヒステリックに「さわらないで!」と、はねつけ「どうかお幸せに!」と叫んで駆けて行ってしまいます。

走り去るマヤの後姿を不思議そうに眼で追う真澄。(チビちゃん…そういえば前にもたしか…)「どうかお幸せに!」と言って、電話を切られたことを彼は思い出す。(なんだというんだいったい…)そこで真澄はひとつの結論に至ります。(嫉妬している…?嫉妬…!?嫉妬だと…あの子がおれに…?まさか…?

いやいやまさかではありません真澄さん。嫉妬しているんです、マヤは大いに嫉妬しているんですよ!と、ファンの声が聞こえてきそうですが、残念ながら今後ふたりは歩み寄ることはないばかりか、更に離れていっちゃうんですよね~。作者様は、マヤは、紫のバラの人の正体を知るまで真澄への好意を気づかせないと計画していたようで、この後マヤのイライラは続くものの、問題は一行に解決に向かいません。そればかりか真澄は不幸のドツボに自らはまり込み、ついに出られなくなってしまいます。

 

稽古に戻ったマヤ自身もなぜ自分がイラついているのかわからず、苦しんでいる様子。マヤは自分に沸き起こった感情を認めたくなくて、(きらいだあんなやつ…!冷たくて非情で仕事のためならどんなひどいことだって平気でする悪人なんだから…!そうよ母さんのかたきなんだから…!そうよあんなやつあたし大っきらいなんだから…!)と、必死に否定します。

 

わたしは「ガラスの仮面」全編を通して、このニアミス事件が結構印好きなのですが、皆様はいかがでしょうか。これがきっかけで、ふたりの関係が前向きに変化していくんじゃないのかと期待していたのです。が、実際はあまり関係なかったようですね…そればかりでなく、真澄はマヤに派手に「イサドラ!」のパーティーで派手に喧嘩をふっかけますので、また関係は悪化してしまいます。(はぁ~)