・コミックス30巻<”「嫉妬だと…?あの子が俺に…?まさか…?」”から”(そしておれも自分をしらなかった あの少女に出会うまでは…だがもう遅い…)”まで>

真澄30歳、マヤ19歳

 

狼少女の章から紫のバラの人バレまで、真澄とマヤとの未来に希望が持てなくなるプロセスが延々と続きます。マヤは芝居に集中して真澄の事を思い出さないし、思い出しても、「あんなやつのことなんか…!」と否定してろくに考えもせずすぐに忘れてしまうのです。そして真澄がマヤのためにした行動をすべて悪意ととってしまうという単純さ。

マヤは「1パーセントの可能性に賭ける」と常々口にしているわりには、劇場も初日もキャストも決まらないという危機的な状況において、自ら何の手立ても取っていません。そればかりか、黒沼の開いたオーディションを呑気に楽しんでいます。深刻になれとは言いませんが、はた目からみれば「マヤあんた、ホントに芸術大賞獲る気あんの?「紅天女」を演る気あんの?」と見えはしないでしょうか。

真澄はこれまで非常に分かりにくい応援をーーー少なくとも単純なマヤには気づかない応援をし続けてきましたが、「忘れられた荒野」が芸術祭の賞の対象になったのは、真澄のしかけた「イサドラ!」のパーティーのデモンストレーションが功を奏したのは素人目でもわかることではないでしょうか。(少なくとも黒沼はよくわかっている)「理由は自分で考えてごらんなさい。真実が見えてくるかもしれないわ」と、水城から親切に忠告されているのに、「わからないわどういうことなのかしら…?」と、相変わらずとんと考えつかない様子。

マヤに賞を獲らせるため頑張っているのは、真澄一人だけ。しかしマヤは自分に降りかかってきた(真澄がマヤのためにお膳立てした)幸運は、すべて偶然の産物として片づけてしまう始末…。理解してもらえない真澄は、散々罵られてほとんど壊れかかっています。「真澄なんで、ここまでしてマヤの事が好きなの…?いい加減あきらめちゃいなよ」という読者の声が、どこともなく聞こえてきそうではありませんか。。それでも尚、真澄は「おれがあの少女にひかれているのはあの魂だ…生命のありったけをかけているあの情熱だ…」と、言っておりますので、マヤにどれほど嫌われても、マヤの熱い情熱をどこまでも愛し続ける覚悟の模様。真澄って本当にスゴイですよね。。

 

・真澄に接近する台風

 

結局「どうかお幸せに!」と、ヒスを起こして真澄の元を立ち去って以来、残念ながらマヤが真澄に何かしらこれについてアクションを起こすことはありませんでした。同様に真澄もマヤが"嫉妬"しているかもしれないと思いつつも、マヤと接触して何かしら事実をつかもうとはしていません。そんな折、大沢事務所で新たに手掛けらる「イサドラ!」がこの秋大都劇場で上演する事が決まります。真澄は部下から「企画としてはなかなかのもので話題性はあります」と報告を受け、別段顔色も変えず「よかろう」と判をついてます。同じ時期に、真澄は月影の行方が判明した事を、部下から報告を受けています。おそらく春のアカデミー授賞式まで紅天女の候補者と会うつもりがないことを、ここで聞いたのでしょう。となると、「ふたりの王女」の時のようにマヤは、大事な舞台で月影の指導を受けることができないわけです。真澄は(マヤ…このままではきみの道は険しいことになりそうだな…)と、言っていますので、益々困難な状況に陥りそうなマヤになんとか賞を獲らせるために、この時から真澄はマヤに仕掛けようとしている"計画"を練っていたのかもしれません。

 

さて何もしらないマヤは亜弓から電話で、月影先生の行方をどうやら真澄がつかんでいるようだと知らされます。それを聞いたとたんマヤは(速水さん…わかったら真っ先にあたしに知らせるっていったのにあの冷血漢…!(中略)忘れているなんて言わせない…きっとまたなんかたくらんで…かくしてるんだわ)と、息巻いて大都芸能に単身乗り込み会いにいきます。真澄のお見合い事件以降、マヤの方から真澄を呼び止める、会いに行く、接近する、、といったシーンがだんだんと増えています。これもマヤの心境の変化でしょう。真澄が結婚するかもしれないという焦りから無意識に真澄に会いたいという欲求が増えているのではないでしょうか。

到着した大都芸能で真澄は会議中で会わせてもらえません。会議が終わるまで待つというマヤを回りの社員たちが追い出そうともみあいます。マヤは壁にたたきつけられ、床に倒れてしまいます。そこで真澄の見合い相手と出会うわけです。

 

・豆台風とご令嬢

 

倒れ込んだマヤの目前に現れたのは、真澄の見合い相手の鷹宮紫織でした。マヤはこの美しい女性がすぐさま真澄の見合い相手だと理解します。ニブいマヤには珍しく感がいいですよね。(あのひとだ…!週刊誌に速水さんと一緒にのっていた…あのひとだ…!このひとが速水さんのお見合いの相手…!)マヤは驚いて言葉を失っていますが、もし、真澄に対する気持ちを自覚していれば、この時の衝撃はこんなものじゃなかったでしょうね~。真澄は部屋の外で起こっている騒ぎを聞きつけて出てきます。騒ぎの原因がマヤであると知って真澄も非常に驚いているようですが、話の内容が月影の事だと知ると、水城にマヤを応接室に連れていくよう事務的に命じます。水城に「社長はあとで話をきくそうよ」と言われているのに、マヤは真っ赤になって「逃げたら承知しないわよ!」と真澄にくいつかんばかり。(もしここにマヤの深層心理を説明する吹き出しがつけることができたら、どんなセリフでが相応しいでしょうか?「わたしというものがありながら、よくもこんな年増な女とお見合いなんかしたわよね!」と、わたしなら書きます(笑)真澄は「大丈夫 台風の直撃をうける覚悟はできているよ」と笑ってマヤに応じていますが、紫織と視線が合うと意味深に言葉をとめます。この時の直立不動で微笑みながら真澄を見つめている紫織ちょっとコワイですね。監視しているような雰囲気すらあります(汗)

 

・「速水さんは…?」

 

その後マヤは応接室で真澄の見合い相手について聞かされます。鷹宮紫織とは日本有数の企業グループのトップである、鷹宮天皇とあだ名されるほどの権力者の家のご令嬢である事、真澄の義父である速水会長がこの縁談に賛成している事など、マヤとは天と地ほどの違う世界に住まう人間である事を知るのです。「速水会長は昔 この鷹宮会長にお世話になったことがあるらしくて恩人だときいているわ。もし鷹宮会長からの頼みごとがあれば死んでも断れないでしょうね。なんにせよ真澄さまが紫織さまと結婚なされば大都芸能にとってこんな強力なことはないわ。だから速水会長は大乗り気なの」水城は大都芸能の社員として、真澄のこの結婚が大都にとってどんな意味をもたらすものなのか、マヤに説明します。マヤは、今の説明で真澄がどんな状況におかれているのか理解したようですが、マヤにとって興味があるのは真澄の気持ちでしょう。「速水さんは…?」と、彼が今度の結婚話をどう思っているのか尋ねています。水城は即答することができないばかりか珍しく狼狽えています。彼女は真澄が本音を偽って見合い相手を受け入れようとしていることを知っていますが、なぜそんな気持ちになったのか事情がわからないので、マヤにきちんと説明できない。「大都芸能にとってプラスになる女性を選ぶと以前からおっしゃっていられたわ」と、だけ返答しますが、その言葉にマヤは何も言えなくなってしまったようです。少なくとも水城は"真澄さまは紫織さまを愛しているから結婚しようとしているわけではない"と、言ったつもりだと思いますが、マヤはあまりいい意味で受け取らなかったかも。「そう…そうよね…大都芸能のためならなんだってやるわよね。仕事のためなら…速水さん…」と、答えています。これは、愛していない人間と仕事のために結婚するなんて軽蔑するわ、という意味なのでしょうか?それとも、真澄の選んだご令嬢に自分は遥か及ばない事を自覚したマヤの負け惜しみでしょうか?

 

・「おれもその1%に期待することにしよう」

 

その後会議の終わった真澄が部屋に現れると、暗かったマヤの表情がまた元に戻ります。「ん?どうした?やけに元気がないな。さっきまでの威勢のよさはどこへいったんだ?」(真澄も気の利かない男ですね!マヤは水城から紫織の事をここで聞かされて、動揺していたからに決まっているじゃないですか~)「いま顔をみたら急に出てきました」マヤは、赤くなって目をつりあげますが、真澄の顔を見たら何か文句を言わないと落ち着かない習性になってしまっているのではないでしょうか。朴念仁真澄は「それでこそいつものきみだ」と、笑っていますけどマヤの乙女心など少しも分かっていない様子。

「月影先生の居場所しっているんでしょう 速水さんおしえてください」「誰にその話をきいた?」「誰でもいいでしょう?どうして月影先生の居場所をかくしているんですか?」真澄は相変わらずマヤが怒るような話の進め方をしていますよね。マヤも単純ですから、煽られるとすぐに声のボリュームが上がるようです。「誰からきいたかだいたい察しはつく」真澄はマヤが亜弓と近頃仲がいいことを知って(そして気に食わなく思って)ますので、マヤが亜弓から話を聞いたと感づいているでしょうね。

真澄は自分の部下が月影を探し当てた事、月影が紅天女のふるさとに源造というじいやと一緒にいる事、そこで健康に暮らしている事、その山奥の紅天女のふるさとがどんな素晴らしい場所であるかを語ります。「月影先生は自分の居場所を公表するのはやめてほしいとおっしゃったんだ。もしひとに知られることがあれそこを出て姿をかくすとまでいわれたらしい。そしてきみにも居場所は教えないでもらいたいと強くいわれたそうだ。来年の春まではな。わかるだろう?来年の春までは…だ」マヤもまた、月影が来年の春まで月影と会えない事の重大さを理解したようです。(月影先生はそれまであたしに会う気はないんだわ。もしそれまでに賞をとれなければ「紅天女」は亜弓さんにゆずられる。永久に幻になってしまう…!)と、焦りを露にしています。

 

「どうやら「忘れられた荒野」の狼少女ジェーン役ですべてが決まりそうだな」真澄がこの時、ソファーの縁に座ってソファーに腰かけているマヤを上から見下ろしている構図がいいですね。まだ精神的にマヤを掌握しているという真澄の自信の表れかもしれません。「ところできみはまだ「紅天女」への1%の可能性を捨てないのか?」「ええ…」「ではおれもその1%に期待することにしよう。きみを信じているよ」マヤを射るような真澄の真剣な眼差しにマヤはどきんと顔を赤らめています。「そ それはどうも…!」(どうしたんだろ…?今速水さんの言葉が真剣にきこえた…あたしのこと「紅天女」からはやく手をひけばいいと思っているはずなのに このひとが本気でそんなことを思うはずないのに)これは真澄がマヤに「きみの演技がおれを感動させたなら、おれはきみに臨むだけのバラの花を贈ろう」と言ったのと同じシチュエーションですね。しかし今回は、真澄はバラの花を贈るとは言っていないんですよね~。バラを贈ってもマヤに何の効果もないことを、彼は学習したのでしょうか…

 

・水城の不安感

 

さて事の成り行きを見守っていた水城は「…」と言って何も言葉を発することはありませんでしたが、何か一言言いたそうです。未だマヤに執着がある真澄の態度が解せないのでしょうか。秘書としては「速水社長は北島マヤを有力な「紅天女」候補女優として扱っているのから構っているのかしら?」と、考えていたのかもしれませんし、真澄の本心がどこにあるのかを知っている人間としては「未だマヤに未練があるの?あなたは紫織さまと結婚するつもりでいるんじゃなかったんですか?」と、言いたかったのかもしれません。ひょっとしたら水城はこの頃から、真澄の紫織に対する曖昧な態度、マヤに対する執着が、後々おそろしい大惨事をもたらす事を予感していたんじゃないでしょうか。コミックス48巻で、真澄から「婚約破棄」を言い渡され紫織は非常に傷ついていますが、「結婚式のキャンセルと、鷹宮グループとのプロジェクトとのキャンセルによる大都の損失を想定するシュミレーションをしろ」という恐ろしい指令を受ける事になった水城こそ、一番の被害者だったんじゃないかとわたしは思います。この時ほど水城は「こんな事になる前に、なんでわたしの言う事をももっと早く聞かなかったの」と強く思ったに違いありません。

 

・「紅天女」の故郷では夜は降るように星がみえる

 

話が終わったのを見計らったからのか、それとも紫織がせっついたのか、部下が紫織が待っていると真澄を呼びに来ます。「あ…どうもおじゃまさまでした」頭をさげていつになく礼儀正しいですけど急にお行儀がよくなって、マヤったらどうしちゃったのかしら?「どういたしまして 未来の紅天女になんのもてなしもせず 失礼を…」そんなマヤの丁寧なあいさつに応じる真澄。「速水さん なんかあたしのことバカにしているでしょ」マヤまた赤くなって真澄に文句。「いやきみの勇気を尊敬してるだけだよ」対して真澄は楽しそう。「なぜついてくるんです!?」会社の廊下を並んで歩くふたり。「おれも会社を出るんだからしかたないだろ」しかたなくはありません。真澄はマヤと一分一秒でも一緒にいたいのです。「何階ですか?」エレベーターの中でボタンを押そうとするマヤ。「1階にきまってるだろ。それともきみは上へあがって屋上から帰るつもりか?」「できればそうしたいです」「羽がなくて残念だったな」(最悪…)密室のうえ上下に高速で動く乗り物だからでしょうか、「ガラスの仮面」では物事が大きく転換する直前や、印象付けたい出来事になぜかエレベーターのシーンが使われる事があります。このシーンの直前に、真澄は聖とエレベーターの中で密会をこなした後マヤと意味深な出会いを果たしていますし、46巻の北斗プロの暴行シーンの直前にも真澄は紫織とエレベーターを使っています。真澄はマヤに「上へあがって屋上から帰るつもりか?」と冗談めかして言っていますが、実のところ本音が漏れていたのではないでしょうか。階下に降りれば紫織が待っています。真澄は、義父が引いたレールの上を歩む道(紫織と共に生きる道)なんかより、屋上に上がってマヤと一緒にどこかに飛んでいけたらどんなにかいいかしれないなんて、そんな風に思っていたんじゃないでしょうか。

 

「「紅天女」のふるさとってきれいな所なんでしょうね」以前のマヤならこんな話題を真澄に振る事はなかったでしょう。不発に終わったように見えるあのプラネタデートの経験が、マヤに真澄と共通の想い出をここで思い起こさせています。「そうだな 空気が紅に染まるほどの花…夜には降るように星がみえるらしい。プラネタリウムでしかみられないと思っているような星が多くみられるそうだ…」真澄もわかっているのか彼は"プラネタリウム"というワードを使ってマヤに星空を連想させようとしている。(速水さん…プラネタリウム…満天の星…満天の星…!)効果はてきめんで、真澄とマヤは同時に同じ星空を想像している模様。マヤはうっとりとして「すごいでしょうねきっと」なんて呟いてます。「ああ」と同意する真澄も同じでしょう。「「紅天女」のふるさと いつかいってみたいわ」「おれもだ」おおお、示し合わせたわけでもないのに、ふたりとも共通の認識と目的を持っているではないですか。(←さすが魂の片われ)(速水さん…あたしなにしてんだろ…このひととこんな所でなんだか仲良くしゃべってる)と、マヤは真澄との会話に納得がいっていないようですが、自分から話題をふっている事に全然気づいていないのでしょうか。そこでエレベーターは1階止まり、マヤは夢の世界から現実に引き戻されます。「あ…あたしあなたといっしょになんかいきませんからね!!ぜったいに!」尋ねられてもいないのに必死に否定するマヤ。「誰がきみといくといった!?こっちだって子供のおもりはごめんだ」「あたしもう子供じゃありません!」「おれはきみが中学生の頃から知ってるんだぞ!」「ちょっとぐらいおじさんだと思っていばらないでください!」「きみこそ少しは年下らしくしたらどうだ!?」「よけいなお世話です!」

社員は鬼社長が女の子と喧嘩しながら歩いていると驚いていますが、真澄のこの世で一番の楽しみはマヤと楽しく口喧嘩することではないでしょうか。46巻で真澄と共にエレベーターで階下に降りてくる途中、紫織は(紫織は真澄さまのいきたいところへ…真澄さまのお好きなことを御一緒に…)と心の中で呟いている場面がありますが、このシーンを読んだ後に30巻のこのシーンを改めて読んでみると、紫織が悩ましく考えていた同じ場所で、真澄がマヤと楽しそうに喧嘩をしているのが、なんとも皮肉ですよねえ。

 

ふたりはロビーまでやってきました。階下で待っていた紫織の視線に気づいたマヤは、気まずそうに会話を止めます。その後具合の悪そうにしている紫織の介抱をする真澄を見ていられないとばかりにマヤは「あ…あの…じゃ あたし あたしこれで…」と言って、まるで逃げるようにその場を去ろうとします。しかし真澄はここでマヤを引き止めるのです。「待ちたまえ。プラネタリウムで星をみるのはきみと一緒にいったあれが最後だ。おそらく永久に…」そう言って、彼はマヤの返答も待たずに、紫織と共に車で去ってゆきます。なんだかこれ、真澄の最後の"告白"のように聞こえますが、マヤでなかったら真澄の気持ちが今でもマヤと共にあって、それをマヤに伝えようとしちることぐらい感づきそうなものですよね。が、相手がマヤなだけにやはり何も伝わらない。(今の言葉はどういう意味ですか速水さん。プラネタリウムで星をみるのはあたしと一緒にいったのが最後ですって…もういくことがないなんてどういう意味ですか…?)マヤは彼が何を言いたかったのか分からず、立ちすくみます。前回プラネタデートで別れ際にも彼は何か言いたそうにして、結局何も言わずに去ってしまいましたが、本当は今口にした事を言いたかったのでしょうか?

 

これ以降、真澄とマヤの楽しい漫才シーンはあまりでてきません。その代わりなぜか、マヤと英介の漫才シーンが増えてゆきます。そしてかつてマヤが真澄を尻に敷いていたように、今度はマヤが英介をふりまわすようになるのです。「ガラかめ」で極悪人として知られているあの英介が、です。この先、「あの子が大都と組まなければ北島マヤを潰せ…!」なーんて英介はカッコつけて真澄に命じる事になるんですけど、そう簡単に話は進むのでしょうか?真澄がマヤにハマってしまったように、英介もまたマヤから抜け出せなくなるんじゃぁ…