つづきです↓

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・紫織は”慎ましさ”とは真逆の性格?

 

さて、鷹宮紫織は持病による複数の合併症を持っており、そのためネガティブ思考に陥る気の毒な女性なのだという仮定を前頁で書きましたが、紫織の本来の性格はどうだったのか気になるところです。婚約以前は、なにかと控えめな性格に描かれている事もあった彼女も、真澄のプロポーズ後からは、粗雑さが見え隠れしています。彼女は病気のため”慎ましく”生きねばならなかっただけであって、本来の性格が慎ましかったのかはわかりません。

 

梅の里で月影千草の「紅天女」の演技に魅入るあまり、ふらふらと席を立って地面に座りこんでしまったマヤを紫織は行儀が悪いといわんばかりに「ま…!」と、手を口にあてて嫌悪しています。さらに真澄が、(やる気を出させる事をねらって)マヤに向かって”おてんばな梅の根っこの精”と、いつものように揶揄った時、紫織は馬鹿にしたように、泥だらけのマヤをクスリと笑っているのです。マヤも年頃の女性です。たとえ真澄の婚約者でなくとも、自分の身なりを笑われていい気持ちはしないでしょう。

 

紫織はなぜマヤにこんな振る舞いを見せたのでしょうか。この時の紫織は山道を歩けるほど健康で、欲しい物(真澄)を手中に収め正に幸福の絶頂、ストレスもなかったでしょうから、無駄にマヤを攻撃する必要もなかったはずです。しかし彼女は得意満面だったのか、かねてからライバル心を燃やしていたマヤに向かってマウントをとろうとしました。招かれてもいないのにわざわざ出向き、演技の稽古中の役者を笑ったのです。紫織は、マヤを泣かせてしまって呆然となっている真澄をつっつき一言いいます。「いきましょう。あんな少女をからかっちゃいけませんわ」このコマだけを見れば”稽古中の役者を邪魔しちゃいけませんわ”ともとれますが、たった今馬鹿にしたように笑ったのは紫織の方です。「あんなとるにたらない泥だらけの少女に意識をかける必要はない」と、まるで上級国民のような言い草に聞こえはしないでしょうか。(いや実際上級国民なのでしょうが)

 

・紫織の仮病説

 

読者が紫織に一番イラつく点は、病気を理由に真澄に寄っかかり、彼の意識をコントロールしようとしているところでしょう。絶妙なタイミングで発作を起こし、まるでギャグを狙ったようなワザとらしい倒れ方をしている時もあり、「コレ、ほんとに病気??」と、ツッこみたくなるときも。

 

紫織の立ち眩みは”仮病”説もあるようです。コミックス46巻のブライダルサロンで明らかに仮病を使っているので、疑われても仕方ないかもしれませんね…(;´д`)トホホ。わたしは彼女のクラリとなる症状は一部を除いてホンモノの貧血だと推察していますが、ひっくり返る程でもないじゃないかな~と思っています。真澄の気持ちを自分に向かせるために、自ら進んで派手に倒れているんじゃないでしょうか。

 

紫織のブッ倒れるシーンを最初から順を追って仮病の可能性がなかったのか確認し、もしそうなら彼女の目的は何だったのか、その時、真澄はどう思いどう行動したのか、その結果どうなったのか、それを検証してみたいと思います。

 

①コミックス30巻、マヤの前でブッ倒れる

 

コミックス30巻で紫織は、真澄がマヤと連れ立って話しながら歩いてくる姿に驚き、立ち上がろうとし、クラリとめまいを起こしています。そしてすかさず、倒れかかるところを真澄に抱えられています。真澄の落ち着いた態度、手慣れた様子から、彼女が真澄の目の前で貧血を起こしたのはこれが初めてではなさそうです。この出来事によって、直前まで仲良さそうに?喧嘩をしていたマヤと真澄の会話はここで裁ち切れてしまいました。

このシーンだけでは彼女の病状が本当の病か仮病なのかどうかは読者は分かりませんが、もし真澄の意識をマヤから自分に向けることが彼女の目的だったならば、彼女は実に絶妙なタイミングで立ち眩みを起こしていた事になります。

 

②コミックス35巻、真澄に結婚をしぶられブっ倒れる

 

コミックス35巻で、真澄に結婚を迫り承諾されなかった事を気に病んだ紫織は、主治医曰く”いつもの発作”を起こして寝込んだとされています。紫織は連絡を受けた慌てて駆け付けた真澄を拒絶し、見舞いを受け入れまいとしますが、このシーンこそ、紫織の最大の謀略だった可能性はないでしょうか。なぜならここでは紫織が倒れる瞬間のコマは描かれていないからです。彼女は登場の最初から寝間着姿で布団の中にはいっているだけでした。これは何を意味するのでしょうか?

 

紫織は「なぜわたしとお見合いをしたのか」「優しい言葉をかけて有頂天にさせるのか」「あなたの心はわたしにはない」「同情ならたくさん、子供の頃から聞き飽きている」「あなたはわたしの気持ちに何も答えてくださらない」「ただ優しくしてくださるだけ」「あわれみはいらない」と、真澄の所業?を並べ立て非難します。恋に落ちた男性に自分は嫌われていないようだが好かれてもいない、病身の自分に同情してくれる哀れみ深いただの優しい男性だと知って、女心が傷ついてしまったのは理解できますが、仕事や立場をからめないフラットな状態で出会ったふたりならいざしらず、それを祖父の面前で真澄を非難する理由になるでしょうか。

 

わたしがここで強調したいのは、紫織の祖父である鷹宮翁が、傍らで事の一部始終を見聞きしている事です。真澄の首根っこを摑まえるために、仮病を使って権力者の祖父いる自宅に真澄を呼び出した紫織の意図を強く感じます。(紫織の病状を真澄に連絡をしてきたのはばあやだったようですが、ばあやは単独でそんな事はしないんじゃないか)

 

なぜなら紫織はこの時点で自分は真澄に結婚するほど好かれていない事を分かっていたからです。そんな真澄の方から頭を下げてプロポーズさせるには、祖父の目の前に連れてくるのが一番効果的でしょう。「あなたはわたしの気持ちに何も答えてくださらない」と言って、文句をつけた紫織は、一見真澄に傷つけられた被害者のように見えますが、鷹宮翁がここにいる事によって「わたしの気持ちに応えなさい」と、まるで目下の者に命令する権力者のように見えます。

 

真澄も三十歳を超えた健康な男性ですから、これまでの人生で心残りのある女性もいて当然ですし、また立場上、取引相手として速水家側から鷹宮家との縁談を断りにくい状況であったのは明白でしょう。しかし紫織は真澄の立場や気持ちを考えるような事はしませんでした。逆に紫織の態度は、祖父の威光をつかい、大都芸能の社長たる真澄の立場を危うくさせてまで、答えをださせようと真澄を追い詰めたのです。(のように見える)真澄は鷹宮翁の前で孫娘の紫織から”不誠実者”と罵られ、もう後がなくなってしまった。彼はまるで最後通牒を言い渡されたかのような顔になって、もってきた見舞いの花束を差し出し、「長い間あなたを悲しませせてすみませんでした」と言って、結婚を申し込んでしまいます。

 

真澄は、紫織をその気にさせてしまった責任を感じていたし、いずれプロポーズすべきだと腹を括っていたかもしれませんが、おそらくこの時結婚を申し込まざるを得なかったのは、鷹宮翁の存在故でしょう。逆にもしここに紫織の祖父がいなければ、彼は即答を避けていたかもしれません。冷静な状態になれば、この結婚は不幸を招くと気づき、引き返した可能性もあります。

この場面では、病気の自分が祖父の威光を持ち出せば、真澄様はなんでも自分の言う事を聞いてくれると学習した紫織の姿が描かれているように見えます。

 

③コミックス46巻、ブライダルサロンであからさまに”仮病”を使ってぶっ倒れる

 

読み直すのも忌まわしい?46巻のブライダルサロンで繰り広げられた、花嫁衣裳汚染事件、指輪盗難事件で、紫織は、あからさまに仮病を使って、ブッ倒れており、マヤに濡れ衣をかぶせます。誰の目にも明らかに「そんなのマヤのせいじゃないでしょ」と思われるような稚拙な小芝居でしたが、紫織がこの作戦でも「イケる」と自信をもって実行したのは、①と②の件で学習していたからでしょう。病気を盾にすれば真澄の意識をマヤから自分に向けることもわけないし、鷹宮の威光を持ち出せば、まわり(サロンの従業員)は自分の思うように動かせられるのだから、難なく成功させる自信があったんじゃないでしょうか。

 

彼女の策略は功を奏し、真澄はマヤの言い分を聞きもせず、紫織の言葉を信用し、ヒスを起こした上マヤを叱り飛ばしてしまいました。(真澄、悪い眼病にかかってんじゃないの?どこをどうやってみたらマヤがやったように見えるんだよ…と激しくツッこみたいところですが、この時の真澄は、マヤと桜小路との仲を憂いており、前回山岸邸でマヤからキツイ言葉を浴びせられて心が折れてしまっていたため単にマヤに逆切れしただけで、本当に疑っていたかどうかは不明)計画は成功し、紫織の勝利とも見れる場面でしたので彼女も満足だったでしょうが、皮肉にも紫織の謀略?が絶好調になればなるほど、このあたりから、なぜか真澄の心は紫織から遠ざかってゆき、距離は益々離れていく場面が描かれてゆきます。

 

この頃の真澄は、紫織の気持ちに応えたいと思いつつも、心は鉛のように重い状態だと独白しています。「病気を持ち出して泣き落とせば真澄様はわたしのもの」と、真澄を再び手中に収める事に成功したかのような紫織でしたが、愛情の確証を得るより、強引に婚約を押し切ってしまったため、真澄の本心を知る機会を逃してしまった、その時のツケがここにきていると思われます。

 

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つづく