カボチャの家を出て先へ進むと、また暫く何もない峠道が続いた。美しく色付いた木々を見る人は、俺以外にいない。
段々険しくなる坂の途中にまた建物が現れたが、この場所にあるのはこの1軒のみだ。
家の裏には林道が延びている。山で仕事をする人の住まいだろうか。
その先にも、集落ではなくぽつんぽつんと人が住む家が現れる。街というには間隔が開き過ぎている。隣の家族同士ではどのような交流があるのだろうか?
夜になれば家のすぐ外に人ならざるモノが歩き回り、近くには誰もいない静寂の時間が流れる。この場所での暮らしがどのようなものなのか、俺には想像が付かない。
燃えるような木々の間を、人とすれ違うのも難しい細い道が曲がりくねりながら走っている。道の両側に、また建物が見えて来た。
もう随分と前から坂道は上るばかりで、傾斜もかなり大きくなって来た。山道の途中に家があるようなものである。
そしてその次に見える建物が、この道沿いにある最後の家のようだ。
霧に隠されていた山が、気付けばもう目の前に迫っている。その全面が紅く色付いて大変美しいが、人知を全く寄せ付けようとせず、幽谷に迷い込んだ人間を見下ろす姿には、背中がひやりとする感覚もある。
この道最後の建物の前には、花や木が丁寧に手入れされた生け垣がある。山に一番近い場所だから、人も何かを表現したいのだろうか。
その先には、もう道はなかった。神子を目指す旅は此処で唐突に終わった。
林道は未だ続いているが、山で仕事をする人以外が踏み入ることは滅多にいないのだろう。
これ以上先へ進むのは止めておこう。帰って来られなくなりそうだ。