遠野放浪記 2014.11.01.-10 夜に浮上する街 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

品数が極めて多いマルカンの大食堂のメニューの中にも、特に人気だという「看板メニュー」は幾つかある。その中でも、今回発注したマルカンラーメンは代表格と言って良いのではないだろうか。

アツアツのあんかけ風ラーメンで、具材にはきくらげ、うずらの玉子、カマボコ……と中華丼を思わせる顔触れ。猫舌の俺にとってなかなか冷めないあんは強敵だが、それでも箸を休めることなく食べ続けてしまう程に魅力的な味だった。

 

 

県外の人で「マルカンの名前くらいは聞いたことある」というレベルでも、このソフトクリームだけは御存知なのではないだろうか。

10段も積み重ねられたクリームは圧巻で、噂では厨房でも、このソフトクリームを客に出せるレベルに仕上げられると認められた職人しか作ることを許されていないとか。地元民はこれを箸で食べていると聞き、正直なところ最初は「ちょっと大袈裟に言っているだけなんじゃないの?」と思っていたが、これは箸を使わないと食べ進めるのがかなり難しい。噂は本当だったのだ。

 

 

ソフトクリームが食事の約半分を占める程のボリュームで、これだけ食べても700円と少々だった(今は少し値上がりしているがそれでも安い)。花巻で下車する機会は今後もあるだろうが、マルカンのメニューを全て制覇する日が来るのは遠い未来のことだろう。

 

腹は満たされ夜も更けて来たので、駅に戻って旅を続ける。今晩の目的地は鱒沢駅だ。

 

 

汽車は闇夜の大地を走り、峠を越えて花巻から遠野へ。

 

 

宮守の街に入る風景も、今日は夜の闇の中。汽車の明かりが辛うじて行く先を照らしている。

 

 

今日は宮守駅では降りず、雨に濡れる宮守の街に見送られて遠野盆地を目指す。

 

 

 

そしてさらに峠を越え、遠野盆地に入って最初の駅である鱒沢駅に到着した。

 

 

駅の裏手には集落があるが、少し離れているために家々の明かりは届かない。目の前の釜石街道も、この時間は遅く帰る人の車が偶に通るくらいで、真っ暗な夜である。

 

 

駅の明かりだけが、何処にも行けずに泣いている子供の様に、寂しく浮かび上がっている。

 

 

 

結局今日は、一日中雨が止むことは無かった。明日はせめて雨が上がってくれれば良いが……。

緊張の瞬間が訪れるまでにずぶ濡れになりたくはないが。昼過ぎまでは、何時も通りの独り旅である。一旦緊張のことは頭の片隅に置いておき、のんびりとした時間を楽しむことにしよう。