遠野放浪記 2014.11.01.-08 昼は短し | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

遂に今日は一度も太陽を拝まないまま、旅は最後の地である岩手県に突入した。

 

 

秋の日暮れは早いが、それ以上にどんよりとした雲が太陽の光を遮り、地上は深い闇に包まれようとしている。既に建物には明かりが灯り始め、何時もよりひと足早く夜が訪れようとしている。

 

 

 

 

空はくすんだ灰色から青に変わり、そしてその青が次第に濃くなって行く。夜空の絵の具が流し込まれたかのような大地に、人々の生活の明かりが瞬き、まるで目の前か眼下に小さな銀河が形作られて行くようであった。

 

 

 

 

 

線路から離れた場所に――恐らく車が行き交うバイパス沿いだろう――大きな商業施設などがあるのが見え、遠い世界の景色を車窓のフィルタを通じて眺めているかのようだ。

 

 

次第に人々の暮らしが溶け込んだ風景になり、汽車は花巻の街に到着した。

 

 

駅のホームが明るく光り、暗闇の中で迷った旅人の道標のように変わらず同じ場所に存在している。

 

 

 

跨線橋を渡り、釜石線のホームへ。

 

 

高い場所から街の灯りや鉄道の信号機の赤を見て、今日も遠くへ来たなと感じ入る。この日のように、空が雨で煙り光がぼんやりと浮かび上がるように見える日は、特にそれを感じる。

 

 

 

次の汽車が到着するのは小一時間後だが、今日は折角なのでこれには乗らず、花巻の街に出てみようと思う。

普段花巻は乗り換えで通過するばかりなので、たまにはこういう回があっても良いだろう。

 

 

余りに順調に先へ進み過ぎると、あっという間に緊張の瞬間がやって来る気がしていたのかもしれない。俺はプレッシャーに強くない方なので、少し寄り道してみたくなったのだろう。