遠野放浪記 2014.11.01.-06 雨中の恋 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

白石川の水面に雨が降り注ぎ、川面から立ち上った水煙が両岸の土手の間に留まり、幽玄な景色を作り出している。

川の中に2羽の鷺がいるのが見える。少し離れた位置に立っているが、互いに見詰め合って悪くない雰囲気だ。此処から熱い恋が生まれるのだろうか。

 

 

 

川の片隅に、気が早い白鳥の一団が来ている。調べてみたら、早い年には11月には白鳥が続々と飛来するそうだ。

 

 

線路は川と別れ、再び内陸へ。時折遠くに数軒の家が集まる集落が見えるが、汽車が走るのは何もない広大な田園の中である。

 

 

遮るものが何もない台地は、遥か彼方まで灰色の雲で覆われている。地上に充満する霧が全てを飲み込み、一夜にして世界を変えようとしているかのようだ。

 

 

 

 

気が付けば少しずつ、人工物が視界のすぐ近くに見えるようになって来た。河川の管理施設、水道橋、誰もいない踏切。雨の中では、普段当たり前のように其処にあるものが、こんなにも情緒的に見えるものだろうか。

 

 

 

 

名も無き人々が暮らす道の小さな踏切と、遠くで煙を上げてフル稼働している工場群が、同じ世界にあるものだとはとても信じ難い。

 

 

仙台に近付き街に入ると、車窓に夥しい数の四角い建物が見えた。此処は太子堂駅から長町駅に連なる「あすと長町」という区域の、その用地に建てられた仮設住宅だ。

今ではその全てから住人は退去しているが、このときは未だこれだけの数の人たちが、仮設の暮らしを余儀なくされていたのだ。

 

 

 

仙台駅に近付くと、街の様子は賑やかになり、少しだけ辛さや苦しみを過去のものにしてくれるように感じる。

 

 

予定より遅れたが、東北一の大都会・仙台で次の汽車を待つのだ。