雨は強くなるばかりで、走っている汽車の中にいてもバチバチと大粒の雨があらゆるものを叩いて回る音が聞こえる。
山は霧ばかりで何も見えず、幾許か視界が開けたとて、もう数軒先の民家の姿もはっきりと捉えることが出来ない。
雄大な山々どころか、すぐ眼下の田園ですら真っ白な霧に覆われつつある。こうなると汽車がまともに走っているのが奇跡的だとさえ思えて来る。
北関東最後の街を過ぎ、いよいよ汽車は南東北へ踏み入って行く。美しい晩秋の岩手に入る頃には、せめて車窓から遠くが見える程度には天気が回復していて欲しい。
白河を越えると空気が一変する気がする。霧はもはや森や山々から立ち上り、自らその姿を冷たい水底に沈めて行くようだ。
時折小さな集落を通り過ぎるが、やはり人々の姿はない。どころか、家すら疎らである。
霧に沈む世界を汽車は孤独に走り続け、ようやく次の大きな街が見えて来た。
この街の先はどうなっているのだろうか。もっと深い雨の世界か、それとも……。