遠野放浪記 2014.11.01.-01 夜明け、雨上がり | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

俺は馬が好きで、競馬も好きなのだが、2014年はJBCが盛岡競馬場で行われることが決まっていたため、現地に観戦に行くことを早くから決めていた。

前回盛岡でJBCが開催されたのは、2002年の第2回のこと。当時はクラシックとスプリントの2レースしかなく(今はこれにレディスクラシックが加わっている)、勝ち馬はアドマイヤドンスターリングローズと、当時のダート競馬を代表する名馬だったことを懐かしく思い出す。

 

なので、前日・前々日と遠野で遊びつつ盛岡へ足を延ばす計画でいたのだが、このとき俺の身にはもうひとつの重大イベントが発生しつつあった。

 

この年の9月から、俺は盛岡出身のお姉さまとお付き合いを始めていた。その人が今は俺の妻になってくれているのだが、このときはまだピュアなお付き合いである。

そして彼女も11月の連休に実家のキウイをもぐのを手伝いに行くというので、成り行きで一緒に競馬を見に行くことになった。気楽な旅なので毎回のように軽装で良いだろう、と準備も整う頃になって、何時の間にか彼女の実家に挨拶に行くという想定外のイベントが発生した。

競馬の前日までは適当に野宿するつもりだったので、こんな汚い格好で顔を出すわけにいかないと断っていたのだが、いいから来いということなので行くことにした。気楽な旅が一転、人生を賭した旅に早変わりである。

 

そんなわけで、11月1日、俺は文京区の自宅を出発した。

朝ごはんには、彼女が置いて行ってくれた岩手県の銘菓、南部片富士ゆきころんをいただいた。

今まで何度も岩手県に足を運びながら、盛岡には殆ど縁がなかったため、このような銘菓があることも知らなかった。とても食べ応えがあり、甘いもの好きの俺には嬉しい朝ごはんである。

 

 

 

パティと一緒に東大前を通り、池之端から上野を目指す。

夏には既に明るくなっている時間帯だが、季節はもう晩秋である。真っ暗な夜の街に、街頭やマンションの軒先の明かりが寂しく光っている。

 

 

 

上野駅から、今回も長い旅の始まりである。

 

 

宇都宮までは寝たり起きたりしながら過ごしていたが、北に向かうに連れて急激に天気が悪くなって来た。

稲刈りが終わった後の北関東の大地を強い雨が濡らし、時折鳥が苦労しながら空を飛んでいるのを見掛けた。

 

 

 

 

 

鬼怒川を越えるとき、川の畔で一羽の鷺が佇んでいるのを見た。

鷺は一度寄り添った番と、生涯添い遂げるという。俺は少し前まで、自分がそのようなことを意識するとは露程も思っていなかったが……。

 

 

横殴りの雨が車窓を叩き、視界は段々悪くなって行く。秋の花も冬を待つ田園も、この雨で多少なりとも景色が変わるだろう。

 

 

 

 

 

当然と言えば当然であるが、街には人っ子ひとり出歩いていない。陰鬱な空気に中てられて、街全体が重く沈んでいるようである。

 

 

このような天気の旅も、俺は案外悪くないと思っている。晴れた方が景色は良いし、行動もしやすいが、いつも晴れてばかりではつまらない。雨だから発見出来るものもあり、そして次の晴れ間が一層嬉しく感じられるのだ。