夕暮れの街には明かりが灯り始め、それは暗く冷たい深海に沈むひと雫の宝石のようである。
家族の帰りを待つ人々の家の明かり、家路を急ぐ人々の車の明かり、或いはたった独りで家に帰る人の手を取って導く街灯の明かり……。
あの静かな光のひとつひとつに、俺が知らないストーリーが隠されている。
日和田駅。懐かしい。まだ社会人になる前に、この駅で一夜を明かしたことがある。
当時住んでいた大船に帰り着いてこの駅で買った切符を駅員に見せたところ、駅員が日和田駅の存在を知らず「にちわだ」と読んだことにちょっと笑ってしまったのは、小さな思い出のひとつだ。
空が真っ暗になり、旅はようやく郡山駅へ。
小さな街の駅前の明かりが、冷たいアスファルトを照らしている。
まだやっと北関東に入るかどうかくらいなので、やっぱり布団に入れるのは日付が変わってからかも……。
それから先は、車窓からは何も見えなくなったので、再び乗り換えの時間を除いては殆ど寝ていた。
22時過ぎになってようやく、旅の出発地である御徒町駅に降り立った。
普段あれ程騒がしいアメ横に、今は片手で数えられる程しか人がいない。街は相変わらずギラついているが、心なしか歩いている人の姿は少ない気がする(大体いつもより一時間くらい帰りが遅いだけでこうも変わるのだろうか)。
晩ごはんは帰り道にあるすき家(今はもうない)で、三種のチーズ牛丼である。確か出始めた頃は期間限定メニューだった気がするが、今ではすっかり人気のレギュラーメニューと化している。
チーズが好きで、かつ長旅でカロリーを消費している俺にとっては、チェーン店の牛丼も天から降りて来たかのような輝きの夕食である。
腹を満たしてから歩いて家に帰り、荷解きやシャワーなどを済ませると、やはり時計は日を跨いでいた。鹿倉胡桃ちゃんが1歳大人になり、今日から新しい一年が始まるのだ。
今年はカレンダーの並びが最高だったとはいえ、宮守メンバー全員の誕生日を祝うことが出来た。そんな至高の目標も達成し、次はどんな旅をしようかな……。
そんなことを考えながら、俺の意識は現実へと引き戻されて行くのであった。