遠野放浪記 2014.09.15.-10 微かに何かが始まる場所 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

透き通る日差しが降り注ぐ宮守を、汽車は定刻通りに出発した。

宮守郊外の田園も、今が一番輝く時期だ。

 

 

宮守分校の姿が稲穂の奥に見え、まだ残っていたかと安心する。

少し前から市議会でも校舎跡地の利用についての議論が始まり、そう遠くないうちに現在残っている校舎は解体されるだろうと噂されている。あそこもまた、今のうちに俺の記憶と拙著にその姿を留めておくべき場所なのかもしれない。

 

 

 

 

宮守の街を出た汽車は峠を越えて行く。

 

 

花巻に下ると空に雲が増えて来た。午後は天気が崩れるのだろうか。

 

 

空にはあっという間に薄霞が掛かり、太陽の光が弱くなった。晩秋を告げる雨が近付いている。

 

 

 

畦道に一台のトラックが停まっている。雨が降る前に稲刈りを済ませてしまいたいといったところだろうか。

 

 

新花巻に差し掛かる頃には、青空は見えなくなってしまった。

 

 

北上川を越える。未だ昼頃の時間帯だというのに、夕方くらいの暗さだ。

 

 

このあたりでいつも山の向こうに沈む夕日を見ていた。

 

 

 

似内駅を過ぎると俄かに視界に建物が増え、汽車は花巻の中心街に辿り着いた。いつも花巻で釜石線に別れを告げることを思うと、大変寂しくなる。

 

 

 

 

初めて花巻の街に出たときのことを思い出す。別れの寂しさは拭えないが、思い出は旅の数だけ積み重なって来た。

夜が来ればその次には朝が来て、新しい時間が流れて行く。このときの俺にも新しい時間が訪れそうな……そんな予感がしていた。