鉄路は平倉駅を過ぎたあたりから北向きに進路を変えるため、西日が車窓から差し込んで来るようになる。あそこに見えているのは、上郷と下有住を隔てる峠だろうか。
雲は多いが夕日が地上まで届き、収穫直前の稲穂がキラキラと輝いている。何もないが、それ故に全てが此処にある、黄金の都の風景。
汽車は一本だけの鉄路を、遠野の山に向かって走って行く。ごとごとと身体に響く音が心地良い。
次第に車窓に見える家が増え、遠野の中心に近付いていることを感じる。心なしか道を走っている車の量も増えた。
青笹まで来ると、遠野はもうすぐ隣の街であるため、この旅の終わりも近い。
だいぶ太陽が低くなって来て、東側の空は薄暗くなって来た。夜に包まれようとする青笹の街に見送られながら、汽車はいよいよ遠野駅の目前まで近付いた。
線路は一旦釜石街道を離れ、早瀬川の対岸にある鶯崎を通って遠野駅に入るのだが、このあたりまで来ると裏通りにも頻繁に車が往来する。
鶯崎の山影――日枝神社や欠ノ上稲荷がある大日山の裏手を抜けると、さっと視界が開けて眩しい西日が差し込んで来る。
長い旅の果てに人の賑わいが感じられる場所まで辿り着き、大きな安堵感を得る。孤独に峠を越える冒険も、人里で過ごす染み入るような安らぎも、全て等しく旅の中で味わう時間なのだ。
街外れの陸橋――最近は通っていないが初めて遠野に来たときに通ったことがある――をくぐると、もう其処は遠野の中心街。今日も一日がこの場所で終わろうとしている。