遠野放浪記 2014.09.14.-21 地の底の光 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

大橋の街を包み込むように聳える山の底を、長いトンネルが走っている。光が届かない地中を、汽車は光を求めて走り抜ける。

 

 

Ω状のループを経て、汽車はほぼUターンするようにしてトンネルを抜けた。

 

 

先程見上げていた鉄橋の上を、汽車は走り抜けて行く。橋にはガードも何もなく、強い風が吹いたら汽車ごと吹き飛ばされてしまうのではないかと思うような光景だ(実際に釜石線は強風が吹くと運休になる)。

 

 

深い山の中にある上有住駅に到着。この場所で目を覚ましてからどれだけの時間が経っただろうか。

 

 

誰もいない駅を、汽車は通り過ぎて行く。

 

 

そして汽車は峠を越え、ようやく懐かしい遠野郷に戻って来た。釜石から見た遠野方面の空は暗黒の雲に包まれていたが、どうやら天気が悪いのは峠までで遠野の空模様はまずまずのようだ。

 

 

線路の方角が変わり、夕日に照らされて世界に色彩が戻って来た。

 

 

足ヶ瀬の集落を抜けると、線路は再び釜石街道と並走する。

 

 

このあたりは遠野郷の中でも一番端の街で、家も疎らにあるのみだ。以前タクシーを呼ぶのを手伝ってくれ、コーヒーまで御馳走してくれたおばあちゃんは今も元気だろうか。

 

 

少し焦げっぽい匂いがして来ると思ったら、沿線で野焼きをしていた。家が密集していないから、野焼きもし放題だ。

 

 

線路は再びほぼ真西に進路を取り、沈んで行く太陽を目指して旅を続ける。街から街へ向かう道中の、何もない静かな場所。同じ夕暮れの時間帯に、自転車で走ったことを思い出す。当時はとても寂しい旅だと思っていたが、今にして思えばその寂しさこそ当時の俺には必要だったのだろう。

 

 

 

 

汽車はようやく平地に降り立ち、上郷の街に入って行く。

 

 

このあたりまで来ると車窓の風景も幾らか賑やかになり、人々の生活の匂いがする。遠野に帰り着くまであと少しだ。