遠野放浪記 2014.09.14.-10 水がある風景 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

遠くに見えていた集落にやっと辿り着き、長かった徒歩の旅も少し報われた気がした。

 

 

 

人の生活の気配が感じられる場所は良い。

ふと顔を上げると、まだ青い柿の実が風に揺れているのが目に入った。

 

 

そろそろ松倉駅に辿り着く筈だが、見通しの良い線路の向こうに米粒のように見える建造物らしきものがそうだとすると、まだ先は長い。

 

 

此処から道は、集落の中に入ったりまた線路と交わったり、迷路のように旅人を惑わせるようになる。

 

 

 

観光客は立ち入らないであろう集落には、古い木の家に木の電柱、昭和以前から変わらないであろう風景が残っている。

 

 

 

暫く歩くと踏切が見えた。集落が線路で分断されないよう、こうした場所には大小幾つもの踏切がある。

この踏切の名前は栄光踏切。目の前の家に住んでいる人は昔、さぞ鼻が高くなることがあったような人なのだろう。

 

 

集落の中にも段差があり、釜石街道側と線路側の道を繋ぐ小さな坂道や階段が幾つもある。

 

 

 

線路に沿うように水路が流れており、水は高い場所から低い場所へ落ちて行く。今、この水をダイレクトに生活に利用しているわけではないだろうが、これも昔の人の生活の知恵が形として残っている風景だと言えるだろう。

 

 

集落の背後には山が迫っており、坂の上には家もない。集落を出ると途端に寂しい雰囲気に襲われそうである。

 

 

踏切から釜石街道へ下る道は急で、そのまま深い緑に吸い込まれて行きそうだ。

 

 

美しい集落を歩くのは極めて楽しく、心が安らぐが、目的地の松倉駅にはまだ着かない。