遠野放浪記 2014.08.22.-14 ベンチと一体化 | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

どうやらこのあたりは、和野という集落のようだ。附馬牛の中心に近く、世帯数はかなり多そうだ。


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和野の開祖は上村氏と千葉氏という羽黒山系の山伏の末裔で、とある代の長男が「俺は山伏を継ぐのはイヤだ!」と言ってこの地に定住したのが始まりらしい。ただし、史実を裏付ける資料が極端に少なく、はっきりとしたことは未だにわからないそうだ。

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恐らく、これだけ長年わからなかったことが、これからもわかることは無い。

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附馬牛村誌によると元々はこの和野こそが附馬牛内で最も栄えた集落だったようで、それこそ商店や郵便局に相当する建物もあったのではないだろうか。

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今では静かに、神への祈りを生活と共にしていることがわかる光景である。

次第に山は遠ざかり、見覚えがある道に出て来た。

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和野を通り過ぎてようやく、完全に山から抜け出して附馬牛の街に帰って来たという感じがする。

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夏の空の下に小さな人々の生活があり、その中をさらにちっぽけなひとりの旅人がうごうごと走り回っている。何だか楽しくなって来た。

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田圃の向こうに、消防団の詰め所が見えている。つい昨日の朝出発したばかりだというのに、長いこと離れていたような気がする。

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詰め所の道よりも一本手前の道を走っているということは、此処を抜けると藤川さんの店が目の前に現れる筈だ。

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果たしてその通りだった。

店を訪ねると、藤川さんは不在にしていたが、店内を物色しているうちに戻って来た。

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俺は水を買い足した他、おやつにパン2個とバイオレットフィズを発注した。

バイオレットフィズは遠野市民歌の作者も好むカクテルである。

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取り敢えず何事も無く戻って来た安堵感と、決して万全ではない体調の中で附馬牛の奥地を走り回った疲労感で、俺はへなへなとベンチに座り込んだ。孤独に飲む酒が妙に美味く、俺はこのまま溶けてベンチと一体化してしまうのではないかという程、これ以上何もする気力も起きずにただ呆けているのであった。