遠野放浪記 2014.08.21.-08 星の無い空 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

峠を下ると、小出の集落に辿り着く。

数軒の家が寄り添い合うように暮らす、静かな集落だ。


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街灯は数える程しかなく、家に灯る明かりも疎らだ。まるで、星と星の間の果てしない距離を旅している気分だ。

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家と家の間は完全なる闇。疎らであっても時々出現する街灯がこの上なく有り難い。

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雨上がりの水溜まりに光が反射している。

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民家の前を通ると、確かに其処に人が生活している香りを感じることが出来る。しかしこの光は、俺が幾ら手を伸ばしても決して届かない光である。

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星から星へ、当て所無く旅を続けていると、実に様々な感情が湧き上がって来る。俺はこの光の中に入りたいのだろうか、それともより多くの光を発見したいのだろうか。自分でもわからない。

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やがて集落が終わり、道は暗闇に支配される。道と共に走っている猿ヶ石川のどうどうという水音だけが、暗黒の谷間に響いている。

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小出から15分程進むと、遠野の最果て、大出の集落に到着する。

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集落は小出よりもさらに小さく、民家は数える程しかない。早池峰登山の拠点になる集落唯一の民宿も、今は固く扉を閉ざしている。

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集落の鎮守でもある早池峰神社の参道は、不気味な程に静まり返っている。街灯に照らされて浮かび上がる木々の影が無ければ、俺もこの時間にこの道を通ろうとは思わなかっただろう。

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大出よりもさらに先には、開拓集落の大野平があるが、古来遠野の最果てはこの大出だった。此処から先には山があり、人が支配する領域ではなくなる。

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久し振りに夜の旅がしたくて此処まで来たが、流石にこれ以上先へ進むのは無謀過ぎる。今日は一旦、このあたりで夜を明かすことにしよう。