神遣峠。其処は遠野に於いて未だに、現界と異界の境目であることが色濃く感じられる場所である。
峠にある神遣神社で、遠野三山の女神たちが最後の一夜を共に過ごし、それから各々の山に旅立って行ったと言われている。
丁度そのような、神話に近い時間帯にこの場所を訪れたことに、何か意味はあるのだろう。
体調を崩したり、雨に降られたりで今日は全く予定通りに旅が進まず、もうこの場所を借りてひと晩休んで行こうかとも考えたが、この先の道程を考えると、やはりもう少し先まで進んでおきたい。
何時の間に、遠野は真っ黒な闇に包まれていた。この奥に住むのは、異界の住人である。
遠野の神話のその先に、愛憎に彩られた女神たちの時間が流れている。其処に至る扉はこの暗闇の中にある。神々の感情のうねりに触れるべく、手探りで進む旅が始まる。