遠野放浪記 2014.08.21.-06 最後の地への旅 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

早池峰への道の交差点には、遠野最北の店とされる鳥屋部商店がある。此処を通り過ぎると、この先にもう商店は無い。


1


俺はこの店でシライシパンのカステラクリームサンドを買って食べた。

これはどうやらシライシパンがオリジナルらしい。端的に表現すると、パンでパンを挟むという狂気の産物強烈なインパクトを放つ菓子パンである。少しでも体力を蓄えたい俺にとって、甘くて食べ応えがあり、カロリーも摂取できるカステラクリームサンドは天の助けに等しかった。

2


此処まで来たからには、俺が目指す場所はただひとつである。神の座に近付く、孤独な夜が始まった。

3


美しい附馬牛の街は、直に山陰に隠れて見えなくなる。

4


峠道に入って暫くは、少ないながらも人が暮らす姿を見ることが出来る。沿道に色とりどりの夏の花が咲き、心に沁みる美しさがある。

5


しかし、この天気にこの時間では、流石に出歩いている人は皆無。

最初から何もない山道であるよりも、すぐ側に人がいる筈なのに出会うことが出来ない、そんな孤独の方が静かに心に影を落とす。

6


太陽の光は辛うじて地上に届いているが、それを阻む雨雲は御機嫌斜めである。雨は土砂降りでこそないものの、降ったり止んだり、俺を足止めしようと纏わり付く。

7


今日は急ぐ旅でもない、のんびりと行けるところまで行こう。時折立ち止まって雨宿りをしながら進むうちに、雨も諦めたのかすっかり上がった。

8


周囲が闇に包まれつつある中で、俺は神遣峠に到達した。