遠野放浪記 2014.08.19.-11 最後の休息 | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

珍しくこの日のふるさと村には、数える程しか観光客がいなかった。俺としてはゆっくり羽を伸ばせるから、これはこれで有り難いのだが。


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建物の照明は極限まで抑えられ、ほぼ太陽の光だけが内部を照らしていた。傾き掛けた西日が影を落とし、気怠い夏の黄昏の足音が聞こえて来る。

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休憩所の奥に囲炉裏があり、鹿踊りの人形が佇んでいた。

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伝統的な濃紺の衣装を纏った早池峰獅子踊りである。

個人的には、東禅寺などの白い衣装の鹿踊りも大変好みなのだが。


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暫く資料を整理したり、俄かに訪れた夕立を眺めながらウトウトして過ごす。

だいぶ涼しくなって来たところで一旦トイレへ。壁には第5回座敷わらし仮装コンテストの告知が……。

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トイレを済ませる頃には食堂の閉店が近付いていたので、何か軽く食べようと足を運んだ。

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取り敢えず、おやつにソフトクリーム。旅先では必ず食べたくなる。

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おやつだけで済ませるつもりが、ソフトクリームが逆に食欲を煽ってしまったため、少々早いが晩ごはんも食べて行くことにする。

今回は美味しそうな鴨ひっつみと、バーターでおむすびを発注。今日は基本的にもうやることがないため、早めに寝床に潜り込むことを見越して軽く済ませておく。

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前半戦の資料を纏め、おやつと食事を終え……いよいよやることがなくなって来たところで、ふるさと村の閉村時間を迎えた。遠野最後のオアシスとも、これで別れなければならない。

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夏の空の薄明かりは、次第に夜の絵の具で塗り潰されて行く。この時間帯の太陽が、俺ひとりだけ何かから取り残されてしまったような気持ちにさせる。孤独な旅を続けていると、子供の頃に感じたような、言い様のない哀しさが記憶の奥底から甦って来る。

広い田舎の家、太い柱の影が畳の上に横たわり、誰もいない筈の家の中に何かの足音が聞こえて来る。忍び寄るモノに怯えてその正体を暴こうとするが、それが何なのかはわからないまま。

自分でも気付かなかった、心の何処かの弱い部分を揺さぶられるような、そんな夏の黄昏である。