遠野放浪記 2014.08.19.-12 闇に咲く花を探して | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

附馬牛に夜が訪れようとしている。この先には何もなく、地元の人々が寄り添って暮らしているのみである。地上に暗い影が落ち、これからの旅は闇夜との追いかけっこである。


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今日も太陽が山の稜線に近付き、山影は黒く深く黄昏に沈み込んで行く。

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背後から夜が追い掛けて来るようで、この時間帯が一番不安になる。

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火渡の石碑群を通り掛かった。これが出て来ると、いよいよ遠野も最果てが近いという実感が湧いて来る。

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一日最後の太陽光に照らされ、夏の花々は儚く輝いている。

地元の人々が、今でも先人たちの足跡の形である石碑を尊び、大切に手入れしているのだろう。季節毎に美しい花が通り掛かる旅人の心を満たして行く。

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その先には広大な田園が広がっている。

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広い大地を満たす空気が一斉に黄昏に染まる。この果てしない空間でさえも夜は自分の色に変えてしまうのだと思うと、自分の小ささを思い知らされる。

人間は自然の前には無力だが、自然もまた宇宙の前には無力なのだ。

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いつも馬がいる家の前を通り掛かったが、流石にこの時間になると馬は帰ってしまうようだ。

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何だか不思議な感覚に支配されている。遠野の、取り分け附馬牛という土地を旅しているということがそう感じさせているのだろうか。

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やがて附馬牛大橋が見えて来た。これが附馬牛の市街地と、早池峰や達曽部へ向かう道との分かれ道だ。

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初めて附馬牛を訪れた夜、あの橋の下で一夜を明かしたのは良い思い出だ。川崎から来たおばあさんと話をしたっけ……。

今日はもう少しだけ進んでみよう。