遠野放浪記 2014.08.18.-13 目覚め | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

思考を放棄し昼寝をしていた俺は、突如おしりに走った激痛で目を覚ました。どうやら、寝ている間にアブに刺されたらしい……。

結構よく寝たなぁ、と時計を見ると、時間は15時半を回っていた。


実はこの日、18時から人と待ち合わせの約束をしていたのだ。山から下りられなかったら遅れる可能性があることは伝えているが、それでも何とか間に合うことを考えると、残り2時間強で28kmの道程をクリア出来るかは極めて微妙だ。取り敢えず今すぐに、新山を出発するしかない。


それからのことはあまりよく覚えていない。兎に角必死に走ったことだけは確かだ。

前回も書いたが、新山から遠野市街地に帰るにはまず貞任高原に辿り着かなければならない。しかし新山と貞任の間にも幾つかの山が控えており、道は決して下るだけではないのだ。

激しいアップダウンを繰り返すうちにカロリーも底を尽きかけ、俺は明日の朝食用に取っておいたフルーツ缶詰などをおやつに食べることを余儀なくされた。


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一気に激甘の缶詰2個を流し込んだ甲斐あり、俺は幾分か体力を回復。遂に貞任高原の風車群を通過、懐かしい水芭蕉の群生地を掠め、山口の集落へと下った。

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バス停もある。当たり前だが、文明の利器がこの場所まで及んでいるということだ。

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山口に辿り着いただけで、こんなにも安堵するとは思わなかった……。

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しかし、まだ気を抜くわけにはいかないのだ。此処で緊張を解けば一気に足が動かなくなる。遠野市街地までは、まだ30分は掛かるのだ……。

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久し振りに訪れた山口の集落を懐かしむのもそこそこに、俺はカッパロードに出て引き続き市街地を目指した。今朝早くに出発した和野のバス停が、妙にノスタルジックに見えた。

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夏の太陽も流石にそろそろ山の向こうに帰る支度を始めている。昼寝をし過ぎたことを除けばほぼ予定通り、まだ空が青いうちに街に帰ることが出来そうだ。

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山々が、そして雲間から地上を照らす太陽の光が、全て俺の帰還を祝福するためだけに其処に存在しているようであった。

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そして俺は18時ギリギリに遠野駅前に辿り着いた。いろいろ準備を整えていたら結局約束の時間を過ぎてしまったが、きっと大目に見てくれるだろう……。