遠野放浪記 2014.08.18.-10 空を歩くように | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

ほぼ平坦で穏やかな道は、やがて巨大な風車が林立する風力発電銀座に突入した。


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比較的アクセスし易い貞任のウィンドファームと違い、こちらは正真正銘の深山幽谷である。現に俺は数時間の長い道程を経て、あの荒れ果てた林道を進んで来た。

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このようなところに一部とはいえアスファルトの道を通し、マヨヒガ伝説の御膝元であることなどお構いなしに無数の風車を立て並べるあたりに、人間の欲に対する恐ろしさすら感じる。

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巨大な風車が立ち並ぶ風景は壮観で、個人的には好きなのだが、この光景が出来上がるまでにどれだけの苦労と犠牲が払われて来たのかと想像すると、少々複雑でもある。

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恐らくこの風景の中に、現代のマヨヒガが生き残る余地など無いのだろう。

或いは遠野の最果てにまで及ぶ近代化の波に揉まれて尚、姿を留めていたところに、マヨヒガが単なる与太話の類ではなく、間違いなくその歴史を経て伝説に昇華した由縁が感じ取れるのかもしれない。

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この場所は空がとても近く感じる。あの雲にも、今にも顔を埋められそうである。

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貞任にはたまにウィンドファームを見学しに訪れる人がいるが、その貞任と比べものにならないくらい奥地である新山に足を運ぶ人は、余程酔狂な人物であることに間違いない。

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拓かれた道すらない山の稜線に風車が立ち並ぶこの光景を見るだけで、此処が如何に特異な場所かが理解出来るだろう。

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人里に程近い場所で鹿ハンターに出会って以来、俺はずっと孤独な旅を続けて来た。側に居るのはパティだけで、人がどのような姿をしていたのかも忘れてしまう程に長い時間、人と出会っていない気がする。

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このまま先人が拓いたこの道を進めば、何処に辿り着くのかもわからない。しかし共に旅をする誰かに迷惑を掛けるわけでもなし、取り敢えず進めるところまで進んでみる。