迷岡を出た俺は、鱒沢へ向かう旅を再開した。恐らく全部で一日掛かりの歩きになるだろう。
丘を越える道はアップダウンが激しく、じりじりと太陽に照らされすぐに汗が噴き出して来る。
小さな集落が現れては消え、まだ幻想の世界に居残っているような感覚に陥って来る。
脇道に入っても大抵はすぐに消えてしまう。その先には草原が広がっているだけだ。
道はアップダウンを繰り返しながらいよいよ峠のピークに差し掛かり、車一台がどうにか通れるくらいの狭さになった。
丁度森の木々も切れ、素晴らしい景色が見晴らせた。遥か彼方の山の中腹にも、小さな集落が形成され、人が生活を営んでいる風景がある。
何もないように見えていた場所にも、人が住処を構えていたり、農業を営んでいたり、遍く自然に人が生かされて形成されてきた景色である。
後は暫く下るだけ。鱒沢への道路標識も登場し、いよいよ旅も大詰めに差し掛かった感がある。
このあたりは非常に見晴らしが良い。兎に角広大な景色の中である。
どれ位歩けば鱒沢に辿り着けるのかはわからないが、取り敢えずずっと歩いていれば何時かは辿り着けるだろう。何ものにも縛られない自由を俺は今、謳歌している。
自由には責任が伴うというが、今何処を見渡してもそんなものは存在していない。只真っ白な自由だけが横たわっているのだ。


