迷岡のメインストリートと並行し、山側にももう一本の道が横たわっている。
先程にも増して、緑と青に包まれた景色が其処にはある。視界を遮るもののない、突き抜けるような一本道だ。
遥かな山の中腹にも、集落らしき人工物の影が見える。迷岡と同じような、静かな生活を送る人たちがあそこにいるのだろうか。
山側の道は少しずつ低い場所へ向かっている。目抜き通り側の田畑は次第に高低差によって上へ、上へと移って行った。
名も無き川に架けられた橋、農業用水の水道管、上の道へ戻る坂。全てが夏の日差しに照らされ、夢か幻のように揺らいでいた。
きっとこの道を辿っても、何処へも辿り着くことは無く、やがて消えてしまうのだろう。
かつてはこの道も、人で賑わったのかもしれない。今となっては、その痕跡も僅かに姿を留めるのみだが……。
緑と青、ときどき白。夏の色に絆されて、加速度的に頭の中が霞に覆われて行く。これが迷岡という土地が持つ、一種人を惹き付けて離さない魔力の為せるものなのだろうか。
上の道の集落から田畑を隔て、まるで違う世界を歩いているような気分になる。ところどころに、俺を森の深いところへ飲み込もうと、川を渡る道が何食わぬ顔で口を開けて待っている。
これは現実なのだろうか。いや、夢だろうか。
上の道こそが現実なのか、それともあの奥深いところの闇が現実なのか。
暴力的にすら見える夏の色と光に導かれ、混沌とした俺の旅路はまだ続く。


