迷岡のメインストリート沿いには数軒の家があり、そのどれもがこの地で農作を営む家のようだ。
宮守から歩いて来た道と別れ、この迷岡を貫く一本道を歩いてみることにした。
向かって右側には家が立ち並び、その背後には森が迫っている。今、歩いて来た道があの遥かに上にある。
左側には広い田園が、そしてその遥か彼方に山が見える。方向的に、少し遠い気はするが種山ヶ原のあたりだろうか。
実際に歩いてみると、迷岡は決して平坦な土地ではないが、その中でも土地を極力有効活用してこの場所に根付こうとした先人たちの足跡が見て取れる。
稲は今、太陽の光をいっぱいに浴びて急速に成長している。まだ稲穂の形跡すら見えないが、これからおよそ2ヶ月足らずで刈り入れの季節が来るのだから、その成長の速度たるや凄まじい。
一本道のそこかしこに未舗装の農道が分岐しているが、大抵は何処へ行けるでもなく、行き止まりになるかすぐに元の道に戻ってしまう。
勿論、遠くにも道が見えているように、このままどんどん街を離れ、山の中へ消えて行く道もあるのだろう。しかし俺にはその道を見付けることは出来なかった。
迷いに迷った旅路の果てにこの土地に辿り着き、これまで考えていたことが全て馬鹿馬鹿しく思えて来るような光景である。
この風景ももしかしたら、何かしらの迷いが見せる幻影なんではなかろうか。
ふらふらと歩いていると、田圃の片隅に咲く花を行ったり来たりするモンシロチョウの姿が目に入った。迷岡でまだ人間の姿を見ていないが、それよりも先に迷岡の主(?)に出会う。
中国の故事に、蝶になった夢を見たがその蝶が自分の夢の産物なのか、それともこの自分が蝶の夢の産物なのか、区別が付かなくなったという話があるそうな。今の俺に、迷岡を歩いている自分の姿が現実なのか夢なのか、それを区別する自信は無い。