遠野放浪記 2014.07.25.-14 夜汽車の旅 | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

空が暗くなり、闇の中にめがね橋の姿が浮かび上がる時間帯になると、道の駅にいた何人かの旅人がこぞって広場に出て来た。今日は特にその数が多いようだ。


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19時頃には、上りの汽車と下りの汽車が宮守駅ですれ違う。まだ薄明かりが残っている空の下を、明かりを灯した汽車が行き交う光景が見られる。

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完全に空が暗くなる前に、広場から川面に下りる。旅人たちも俺が川に入るのを見て、後から付いて来た……。

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空は限りなく黒に近付き、もう間もなく宮守の街は完全な夜に包まれる。めがね橋の輝きは増し、その姿は神々しくも見えるし、禍々しくも見える。

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真っ黒な水面に橋の姿が映り込み、まるであの向こうにもうひとつの世界があるように感じる。暗く深い水の中は、怖い。

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やがて空が真っ暗闇に包まれ、このあたりで大半の旅人たちは道の駅に引き揚げて行った。人がいなくなり、めがね橋を独占できる今からが俺のお楽しみの時間だ。

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川原の土手を歩き回っていると、遠くから夜空を切り裂く汽笛の音が聞こえて来た。夏だというのに冷たい空気が支配する宮守の夜の中を、寂しい汽笛と共に下りの汽車が走り抜けて行った。

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汽車が去った後は、完全な静寂に包まれる。すぐ上の釜石街道では引っ切り無しに車が行き交っているのだが、その音も光もこの場所までは届かない。

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また暫くして、今度は上りの汽車が通って行った。たった1両で釜石から遥々旅をして来たのだ。

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あれが今日、花巻へ向かう最後の汽車だ。この後もう一本だけ、下りの汽車が残っているが、流石に2時間近く川を歩き回っていたのでそろそろ終わりにしよう。

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名残惜しくも川から上がった俺は、少し広場を歩き回って靴を乾かし、そして道の駅のソファーに寝袋を敷いて休んだ。今日は何人か同好の士がおり、あまり多くの言葉は交わさなかったが、不思議と通じ合えた気がした。

これもエイスリンちゃんの誕生日が今日でなければ、出会えなかったものかもしれない。


エイスリンちゃん、ありがとう。