田園の並木道――いつも車窓から眺めている風景――を曲がると、その先にも水田は続いていた。
先程まで歩いていた場所が広く見渡せる。何人かの人が田圃に出て来て、朝の作業を始めていた。
釜石街道から少し奥に入った場所には、数軒の家が立っていた。このあたりの田圃は彼らの土地なのだろうか。街から通っている人もいるのかもしれないが。
あそこはエイスリンちゃんの小道だ。ということは、もう駅からは結構遠くまで歩いて来たことになる。
並木は道の向かって左側から右側に移動し、このあたりから釜石街道とは一層隔てられた感がある。
このあたりでは取り分け立派な造りをしているように見える。この一帯の田園は、もしかしたらこの家の主の持ちものなのかもしれない。
此処からさらに田園地帯の奥に分け入ってみる。釜石街道はもうあんなに遠くなり、俺との間に横たわる水鏡が無数に折り重なり、遥か遠い別世界のように見えた。
広大な水鏡に遥かな山々と、そしてすぐ近くにある家や木々の姿が映り込み、覗き込めばこの中にあるもうひとつの世界に飛び込めそうだ。
地元の人々がすぐ近くで活動している中、俺はこの空気の中で独り、もうひとつの世界を旅しているのかもしれない。