福島駅を出て、少しずつ街から離れて行く風景にも、綺麗な水鏡が形成されつつある。
このあたりの田圃にまで水が入る季節に旅をするのは、思い返せば初めてのことだ。
全ての区画に水が入っているわけではないが、これだけ広い大地が一面水に覆われて行く様は、宛ら湖の中へと旅をして行くかのようだ。
一瞬視界が途切れた後、既に遥か眼下に見える街には、雲ひとつない青空に照らされ輝く湖の群れがあった。見慣れた筈の車窓の、初めて見る美しい風景に、俺は言葉を失い只それを見詰めていた。
キラキラと輝く晩春の街は遥か遠くになり、列車はいよいよ県境を越える。
山がすぐ近くにあり、僅かな平地に水を張って稲作を営む土地の中を、旅をする人たちが行き交っている。美しい楽園から楽園へと飛び回る、夏の渡り鳥になった気分だ。
白石まで大きな街は無い。大自然の中で寄り添って暮らす、ちっぽけな人々の姿が現れては消えて行った。
もう少しでこの旅も折り返しである。