春の西日は眩しく峠道を照らし、じりじりと焦げ付くような暑さである。パティに跨り風を切って走ると、汗ばんだ肌に涼しさが感じられた。
山も木も御不動様の鳥居も、夕日を浴びて地面に長い影を落としている。間も無く夜の帳が降り、光と影の区別も付かなくなるだろう。
光と影がくっきりと感じられる最後の時間帯、山桜の薄紅が燃えるような色を山肌に投げかけている。
やがて木々の高さが見上げるようになり、道は暗い森に入って行く。
下り坂なので然して時間は掛からず、森は再び途切れて青笹の集落が見えて来た。
釜石街道に下る道沿いに、次第に大きな街が見えるようになる。此処で安心すると、峠を往復した疲労感が一気に襲い掛かって来る。
脚が鉛を付けたかのように重くなり、下り坂なのにペダルを漕ぐ足が重い。
太陽は山の稜線に近付くに連れて淡くおぼろげになり、青笹の街は影の中に沈んで行く。風の音だけが聞こえる静かな街を、汗だくになりながら必死に走った。
ようやく青笹駅に辿り着いたところで、釜石街道から釜石線沿いの裏道に入り、最短距離で駅前を目指す。今や山の向こうに隠れようとしている最後の太陽に向かって、懸命に走る。
初音橋を渡って鶯崎に差し掛かったところで、太陽は完全にその姿を隠してしまった。もう遠野の街は夜の闇に包まれてしまった。
冷たい風を肌に感じながら、優しい明かりを灯し始める遠野の街に入り、長かった一日はようやく終わろうとしていた。




