遠野放浪記 2014.05.04.-21 夜に怯えながら | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

春の西日は眩しく峠道を照らし、じりじりと焦げ付くような暑さである。パティに跨り風を切って走ると、汗ばんだ肌に涼しさが感じられた。


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山も木も御不動様の鳥居も、夕日を浴びて地面に長い影を落としている。間も無く夜の帳が降り、光と影の区別も付かなくなるだろう。

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光と影がくっきりと感じられる最後の時間帯、山桜の薄紅が燃えるような色を山肌に投げかけている。

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やがて木々の高さが見上げるようになり、道は暗い森に入って行く。

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ひと足先に夜の暗闇が訪れたかのようだ。

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下り坂なので然して時間は掛からず、森は再び途切れて青笹の集落が見えて来た。

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集落の色は次第に消え、全てが黒い影の中に落ち込んでいる。

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眩しい西日を浴びた桜並木が、綺麗だ……。

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釜石街道に下る道沿いに、次第に大きな街が見えるようになる。此処で安心すると、峠を往復した疲労感が一気に襲い掛かって来る。

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脚が鉛を付けたかのように重くなり、下り坂なのにペダルを漕ぐ足が重い。

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太陽は山の稜線に近付くに連れて淡くおぼろげになり、青笹の街は影の中に沈んで行く。風の音だけが聞こえる静かな街を、汗だくになりながら必死に走った。

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ようやく青笹駅に辿り着いたところで、釜石街道から釜石線沿いの裏道に入り、最短距離で駅前を目指す。今や山の向こうに隠れようとしている最後の太陽に向かって、懸命に走る。

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初音橋を渡って鶯崎に差し掛かったところで、太陽は完全にその姿を隠してしまった。もう遠野の街は夜の闇に包まれてしまった。

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冷たい風を肌に感じながら、優しい明かりを灯し始める遠野の街に入り、長かった一日はようやく終わろうとしていた。