遠野放浪記 2014.05.04.-20 笛吹峠 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

笛吹峠は義経伝説において、源義経が沿岸部へ抜けるために秘かに行進したとされる場所だ。確かにこのような難所ならば、逃避行には打って付けなのかもしれないが。


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この市境を頂点として、峠道は再び下りに転じる。釜石側に目を遣ると、遠野側の急坂に勝るとも劣らない曲がりくねった下り坂が森の中へ消えている。

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またこのあたりは橋野という地域に当たり、この旅の翌年――2015年に世界文化遺産に指定された橋野高炉跡もすぐ近くにある。

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世界遺産に指定されるなら、行っておけば良かった……。

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なお笛吹峠の名の由来には諸説あり、険しい地形から冬になると必ず吹雪くというところから「吹雪峠」が訛ったという話や、青笹に住んでいた少年が継子故に家族から憎まれ、峠付近で馬を遊ばせている隙に四方から火を放たれ殺されてしまったが、彼は最期に大好きな笛を吹きながら絶命したから笛吹峠と呼ぶのだという話もある。あまりに悲しい話である……。

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もう日が暮れる。誰も通り掛からない静かな峠道に、歴史に埋もれて行った幾人もの名も無き人々を見守って来た漆黒の夜が訪れようとしている。

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市街地まではおよそ16km、そのうちおよそ半分以上は青笹の街までの下りなので、まあ日没までには街に着くだろう。

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遠野で過ごす一日が今日も終わろうとしている。帰り道を急ぐ俺の背中を追い掛けるようにして、山から強い風が吹き始めた。それが耳元で、寂しい笛の音のように聞こえた。