列車は福島の街を後にし、次第に人里を離れて山へと向かって行く。
山から見下ろす福島県北の大地には、明るい春の日差しが降り注いでいる。一週間前から緑はさらに輝きを増し、季節は着実に前へ進んでいる。
厚樫山を越え、列車は宮城県に入る。いつも天気が悪い県境の小さな街も、今日は抜けるような青空に覆われて暖かい一日を過ごしている。
鉄路は再び地上に戻り、旅をする人が行き交うだけの寂しい田園地帯を走って行く。
街と街の間には、人の気配も無い静かな土地が広がっている。そんなところにある田園にも水が入り、暖かな季節が訪れていることが感じられる。
幾つかの小さな街を越え、風景は山から平地へと移り変わって行く。
街はときに目の前にあり、またときに遥か遠くに離れてしまう。それでも次第に人の気配が多くなり、多くの人々が集い生活する大都会は確実に近付いている。
何もない大地に人が集い、生活を営み、いつしか街が形作られて行く。人間も結局は、壮大な季節の流れの一部に過ぎないのである。