微かに霞む春の空の下、列車は郡山から福島へと渡り歩く。
小さな街のすぐ後ろには、雪を戴いた青い山々が聳え立っている。
このあたりにまで水が来るのは、もう少し先のことになりそうだ。
まだ荒涼とした冬の気配を残した、遥か彼方まで視界を遮るものの無い田園地帯に、明るい日差しが満ちている。
福島駅が近付くと、車窓に映る街が次第に大きなものになって来る。県北には果樹園が多く、風景も少しずつ様変わりして行く。
荒川を渡り、福島駅に到着する直前の車窓は、この旅の中でも好きな景色のひとつだ。上野を出発してからおよそ5時間、もう間もなく折り返し地点といったところだ。
宮城との県境が近付くと、再び街は遠くになり、山々はより大きく近く、長い旅路に立ちはだからんとする。
小さな駅では小さな春に出会える。
ともすれば見逃してしまいそうな程小さな風景だが、旅をしなければ出会えなかった。
この先はいよいよ県境の難所、厚樫山越えが待っている。

