遠野放浪記 2014.04.27.-08 知らない | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

未だ雪深い白望山は時として冷徹な牙を剥いて俺の行く手を阻み、マヨヒガへ立ち入ろうとする愚かな人間を下界に追い返そうとする。


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かつて通った筈の道は川に変わり、俺が未だ知らない表情でちっぽけな旅人を嘲笑する。

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ふと顔を上げると、木々の切れ目から対面に立つ新山のウィンドファームが見渡せた。

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時折与えられるこのような風景を励みに、俺は只管無心で白望山と向き合う。

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山頂に近付くに連れ、足元の雪は段々と深くなって来た。相当分厚く積もっている筈だ。

今、足元の雪が音も無く崩れ去ったら……手掛かりのない恐怖心とも戦う覚悟がなければ、山に挑むことは出来ない。

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マヨヒガの森に音は無く、耳が痛くなる程の静寂が世界を支配している。この場所もまた、遠野に点在する“異界”のひとつである。

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時折道を見失い、手探りで進みながら、それでも確実に頂上が近付いていることが感じられる。

容赦のない自然の象徴である山は時として、本当に気紛れに思い掛けない御褒美を授けてくれることがある。最初からそれに期待はするべくもないが、今日は最後まで無事に歩けるだけで充分だ。