歩く道の高度が増すに連れ、季節は加速度的に逆戻りをして行く。
雪に埋もれた白望山は、最早まともに山頂を目指せる道を探すことすら困難になって来る。
場所によって硬度を変える雪は、不意に俺を奈落の底に突き落とそうとする。その下には厳冬期の間に積もった木々の枝葉が幾重にも重なって横たわっており、道の姿を絶えず変える。
急な斜面では辛うじて、足の裏に土を感じながら歩くことが出来る。全てが未知の雪道に比べれば、急勾配の物理的なきつさなどはきつい内に入らない。
此処まで来たらもう、何も考えずに前へ進むしかない。マヨヒガが見付かるかどうかすら今となっては然して重要な問題ではなく、只自らが挑んだ道に負けたくないという一心だけだ。
登山口から一時間以上は経っただろうか、周囲の空気が少し変わった。
雪は完全に山肌を覆い尽くしているが、行く先の木々は姿を消し、その向こうから明るい光が差し込んでキラキラと雪に反射している。
見た目はすっかり変わってしまったが、俺はこの場所をよく覚えている。
この先にひとつの終わりがある。俺は俄かに高鳴る胸の鼓動を抑え切れず、足に纏わり付く雪をものともせずに駆け出していた。