遠野放浪記 2014.04.27.-06 この世の果て | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

春の香りが漂っていた琴畑林道の旅は、いつの間にか雪と氷に閉ざされた山旅に変わってしまった。


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最早今歩いている場所がしっかりとした道の上なのか、そんなことすらもわからない程、厚く積もった雪の上の行進は過酷だ。

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やがて道幅は段々と狭くなり、傾斜も急になって来る。

斜面は日当たりが良いのか、所々で地面が顔を出していた。

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ぬかるみと残雪で足元はカオスなことになって来ている。人が足を踏み入れた様子は勿論無く、もしかしたら俺が、遠野の最果てに訪れる春の最初の目撃者になれるのかもしれない。

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周囲の空気が緩やかに流れを止め、凍り付くように地面に降りて来るのを感じる。

林道の終わりが近い。季節は変われど、俺はこの空気をよく覚えている。

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そして太陽が遍く山を照らす頃、俺はようやく雪に護られた白望山の登山口に辿り着いた。

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派手な出迎えも無く、暖かみのある人々の顔も無く、辿り着いたのは小さな山。この世の果て。

まだ俺はようやくその端に足を掛けたばかりだ。白望山と俺との、たったふたりだけの時間が始まる。