パティと別れてからどれだけの時間が経っただろうか。たった独りで歩く琴畑林道は非常に寂しい。
やがて第十二号橋が目前に見えて来た。林道で目にする最後の人工物だ。
吹き溜まりになった雪が容赦なく降り積もり、平坦な林道を急な斜面に変えてしまっている。
滑って転べば、そのまま崖下の沢に真っ逆さまだ。俺が大好きな琴畑林道は、今や真っ白な牙を剥き出しにして襲い掛かって来た。
分厚く積もった雪は所々に落とし穴まで用意していて、危険な斜面を乗り切って油断したところへ手痛い一撃が食らわされる。
この場所で求められるのは、只果てしなく続く自然との格闘である。
数メートルの雪に閉ざされた場所から、何故か全くと言って良い程雪が無い場所まで、歩き慣れた筈の琴畑林道がこんなにも表情豊かな場所であったことを感じながら、俺はその上に最初の足跡を付けて行く。
林道を奥に進むに連れて、次第に雪の嵩が増して来たようだ。自分が今、本当の地面からどれだけ高い場所を歩いているのか、それすら定かではない。唐突に行く手の雪が跡形も無く崩れ去ったら……無駄に怖い想像をしてしまう。
沢が林道と同じ位の高さを流れていてくれると、少なくともあそこに落ちても死にはしないという、意味があるのかないのかよくわからない安心感に満たされる。
世界が変わった第十二号橋から、随分標高が高くなって来た。空気はしんと静まり返り、時折刺すような寒さを感じる。
間違いなくこの先に、春はまだ来ていない。一年の半分を氷と雪が支配する、本来人が立ち入るべきではない場所だ。
恐怖と期待が綯交ぜになった感情が、足元からさくさくと音を立てて積み上がって行く。


