岩根橋は花巻と宮守の間にある小さな駅で、ホームは崖の上にへばり付くように狭く、快速列車は通過してしまうため汽車は2~3時間に1本しか来ない。
しかし、そんな小さな駅の周りにも人々は寄り集まって暮らし、集落を形成している。
踏切を渡り、今まで足を踏み入れたことがなかった場所へ向かってみる。
筆塚は文字通り、使わなくなった筆を供養するために立てられることが多いが、その他に寺子屋などの師匠が亡くなった際に、子供たちが供養のために立てることもあるという。平地よりも厳しい山里での生活の中では、教育者は有り難い存在だっただろう。
集落を花巻方面に向かって歩いてみる。もう使われなくなって久しい、ボロボロの小屋が残っている。
反面新しい建物も多く、今でも人々の声で賑わう街であるようだ。
やがて釜石線を跨ぐ釜石街道の陸橋と交錯し、集落は終わりを迎える。
汽車で遠野に向かう際には、この橋をくぐって岩根橋の集落が見えて来るといよいよ目的地が近付いて来たことを実感するのだ。
実際に、東和から峠を越えて遠野市に入り、最初に出会う集落が岩根橋の集落である。いつもはあっという間に通り過ぎてしまう土地だが、こんなにも静かな街が広がっていたのか……。
空が少しずつ晴れて来て、夜の吹雪を乗り切った岩根橋の街を優しく照らしていた。
まだ少し時間はある。岩根橋を目指し、ゆっくり歩いて行こう。