遠野放浪記 2014.02.15.-01 夢の一日 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

2月15日、俺はこの日どうしても宮守に行かなければならなかった。

拙著の愛読者諸氏ならば当然その理由はお察しだろうが、2月15日は臼沢塞さんの誕生日なので、宮守に行ってこの聖なる日を祝うことにしたのだ。


今回は普通の土日なので、小牛田まで行ける週末パスを使って往復することにする。小牛田~宮守間は実費だ。


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朝ごはんは、昨晩のうちに買っておいたグルメシティの見切り品の寿司。中身は毎回少しずつ変わるのだが、今回はサーモンが2貫入っているのが良い。この記念すべき日の始まりにぴったりだ。

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ただ……今回はひとつ、旅の始まりから大きな不安がある。

東京を中心とする東日本一帯は昨晩から近年稀に見る大雪に見舞われたのだ。我が家の周辺にも、氷と水が混じったべちょべちょの雪が分厚く積もっている。

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東京の交通網はとにかく自然災害に対して無力である。そもそも北へ向かう列車が動くのかどうかすら怪しいが、もう仙台のケーキ屋に塞さんのバースデーケーキを発注してしまったので、兎に角宮守に辿り着けることを信じて家を出発するしかない。

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余裕を持って家を出たのだが、街はすっかり様子が変わっていて、ただ御徒町へ向かうのにも倍くらいの時間が掛かる。活気に溢れていた筈の街は、牙を剥く自然に完全に蹂躙されていた。

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取り敢えず、駅に入ってみる。丁度、大船方面へ向かう京浜東北線が出発して行ったので、幸い列車が動かないということはなさそうだ。

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しかし現実はそう甘くなく、程無くしてやって来る筈の上野方面行き列車がいつまでも姿を見せない。

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やはり列車はモロに雪の影響を受けていたようで、次の列車は動いてこそいるものの、御徒町駅に到着するまでに30分以上掛かるという。絶望的な情報である。

こうなってはもう、御徒町駅は諦めて、歩いて上野駅に向かった方がまだ早い。いつもの宇都宮線の出発にはもう完全に間に合わないが、兎に角少しでも先へ進むしかない。

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こうしている間にも状況はどんどん悪くなり、霙交じりの雪は恐ろしい程の強さで街に降り注いでいる。広小路は路面の排水すらままならず、踝くらいまでシャーベットのような泥水に浸かってしまう。これはもしかしたら、今回は今までの俺の旅の中でも群を抜いて絶望的な道程になるのではないだろうか……。


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完全に死に体となった街を必死の思いで歩き、どうにか上野駅に辿り着いた。

しかしさらに追い打ちを掛ける情報が。現在ホームに停まっている宇都宮行きの列車は、いつも俺が乗っている列車ではなく、さらにその前に出発する筈の始発列車だったのだ。この先東北に向かうに連れて雪の勢いは留まるところを知らず、大宮から先に向かう列車の出発の目処が全く立っていない状況だというのだ。


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ただ、俺が縋れるものは今やこのいつ出発するかもわからない宇都宮線しかない。どれだけ時間をかけても、どんな手段を使ってでも、今日中に宮守に着かなければ俺の宮守への愛は潰えたも同然なのだ。俺は車内に乗り込み、出来るだけ早く列車が出発してくれることを只管祈った。