早瀬の十字路を北に向かい、八幡宮も通り過ぎると、家の明かりも疎らで、夜の闇が支配する土淵に突入する。
この土淵には最近、復興支援事業の一環であるかっぱロードなるバイパスが通った。今(2015年現在)は和野までの全線が開通しているが、当時はまず高室あたりまでの開通だった。
初めてこの道を通ったときも、ひたすら長い道程だったことを覚えている。
バイパスよりも旧道の方が、当然ながら家は多い。しかしその多くは明かりを落とし、ひっそりと長い夜が過ぎるのを待っているようだ。
道はいつしか琴畑川と合流。そして土淵地区の分水嶺、一ノ渡の交差点へ……。
俺はこの交差点を右に曲がり、さらに遠野の深い闇へと踏み込んで行く。
旧道にも疎らにながら存在していた街灯も、此処から先はさらにその数を減らしてしまう。
行く手には深い山が聳えるのみ。遠野の中でも、一番夜が暗い場所かも知れない。
一ノ渡を後にすると、此処までの道とは比べものにならないくらい、長く孤独な山道が待っている。そしてその先に、遠野最後の小さな集落がある。
そう、この道が通じる先はひとつしかない。
今晩の目的地は琴畑である。