遠野放浪記 2013.09.14.-12 遠野らしい夜 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

一ノ渡から琴畑までの道は、遠野の内でも支流も支流。

こんなにも夜の闇が濃い場所を、俺は遠野の中で他に知らない。


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大袈裟でなく、何も見えない暗がりの中で、たまに現れる街灯を頼りに少しずつ先へ。

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琴畑川と並走する中で、時折狭い平地を利用した田畑が姿を現すが、近くに人が住んでいる気配は無い。時折、夜の闇に紛れて農作物のお零れに与ろうとする山の動物たちに出くわすが、それが何なのかを目で捉えることは出来ない。

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このような道を、一時間以上。心細いことこの上無い。

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小友から綾織に帰る峠道が、思い返してみるとこんな感じだったかな。

でもあのときとは違い、今回の旅はこの闇の中から始まるのだ。

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やがてどれだけ上って来ただろうか――不意に道が平らになり、目の前に小さな家々が寄り集まって暮らす集落が姿を現した。

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暗がりにひっそりと息を殺して朝を待つ、遠野最後の集落――此処が琴畑である。

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琴畑は本当に小さな街で、数軒の民家と取水施設を置いて他に何もない。

街の端から端まで数分も歩けば、やがて道はアスファルトから砂利道に変わり、山の奥深くへと消えて行く。このような時間に起きている人などいなく、街といってもその静けさは、此処までの道程と然して変わらない……。

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この遠野で一番奥まった場所にある集落から、さらに山道を進むことおよそ10km、遠野の内と外の境界線に立つその場所に、この旅の目的地はある。

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これまで幾度となく遠野を巡る旅を続けて来たが、今回の旅がひとつの大きな区切りとなることに間違いはない。この旅の目的を果たしたとき、俺はまたひとつ次のステップに進むことが出来るだろう。

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明日は今日とは比べ物にならない過酷な道程になる。今日はこの最果ての街で、静かな夜を過ごそう。