季節は巡り、夏が来た。俺が久し振りに遠野を訪れてから半年が経ち、彼の地を覆っていた白と灰色のヴェールは地球の裏側にその姿を隠してしまった。
7月には3連休がある。3日あれば旅に出られる、ということで今回も遠野に足を運ぶことにした。
前日は当然仕事があり、俺はその帰りに近所にある某スーパーマーケットに日用品を揃えに立ち寄ったのだが、その店では嬉しいことに22時頃になると惣菜が見切り品になるというイベントがあることに初めて気付いた。
どうせこのまま寝ずに朝を待つつもりだし、ついでに惣菜を買って帰って朝ごはん代わりにしようと思い付くのは当然のことだった。
そして買って帰ったのが、この寿司だ。甘エビやカニ軍艦なんかが入ってなかなか豪華なのに、回る寿司屋の半分くらいの値段で食べられるのは非常に得をした気分だw
まあ、見切り品イベントが始まるまで惣菜コーナーがほぼいっぱいだった状況から考えるに、ある程度織り込み済みで価格設定しているのだろうから、実際にどれだけ得をしているかはお察しだが……。
ともあれ食事をしながら旅支度をしているうちに、外が明るくなって来た。夏の朝は早い。
今回は一ヶ所是非行きたい場所があるので、切符は宮守駅まで購入。
俺を乗せた列車は順調に北へ向かって走り始めた……。
のは良いのだが、出発すると同時に空から大粒の雨が降り始め、風は強くなって列車を左右に揺さぶり始めた。いきなり酷い始まりである。
東京が荒天だからといって遠野までそうだとは限らないが、今回は晴れてくれることを見込んで目的地を決めたので、どうにか旅の途中で天気が回復してくれることを願う……。
列車は1時間半ほどで宇都宮に到着し、此処から宇都宮線に乗り換えて黒磯を目指す。
宇都宮線の車窓は道中でも特に好きで、2ヶ月前の水鏡が綺麗な緑色に変わった景色を見るのをとても楽しみにして来たのだが……この空模様では。
まあしかし、いつも期待通りの景色を見られるとは限らないのが旅であるし、こういう天気の日も、この土地で暮らす人にとっては掛け替えのない日常の一部である。
そんなことを感じられたことを素直に喜ぼうと、俺は気持ちを切り替えて車窓を楽しむことにした。
宇都宮を出発してから20分くらいで列車は聖なる片岡駅に到着したので、外を眺めてみた。
雨は幸い弱くなって来たようだが、風が強いのが気掛かりだ。
東北本線は非常に長い区間を走るので、何処かで列車が止まってしまうと一大事だ。
このまま天気が良い方に向かってくれれば一番良いのだが、取り敢えず今日は宮守まで順調に到着出来れば御の字だ。
移動中だからといってただ漫然と列車に乗っているだけ……なんて詰まらない。それでは旅に出た意味が無い。増してやこんな空模様だからこそ見られるものもあるかも知れない……それが何なのかは、全てを楽しむ気持ちを持った人間にだけわかる。