今日はどれくらいで登ることが出来るだろうか。

ハイキングというには少々きついが、今日は初めてパティと一緒だということもあってか精神的には充実していて、中腹までは疲れも感じずあっという間に登って来た。

しかし此処から先がまだ長い。周囲の森は次第に深くなり、人里の気配は完全に消え失せた。

勢いだけで登って来たが、少しずつ重い現実が足に圧し掛かって来るのを感じる。

ときどき姿を現す沢が小さな癒しになる。この水は何処へ行くのだろう。

疲労という足枷に抗いながら、勾配を増す険しい坂を上り続ける。太陽が近いからだろうか、晩春の日差しはじりじりと俺を照らし、容赦無く体力を削って来る。

次第に木々が低くなって来た。

4ヶ月前と風景は全く違うが、見覚えのある木々のトンネルに差し掛かった。もう少し、もう少し……。

やがて視界を覆っていた高い木々は消え、山頂付近に広がる広大な牧草地帯に出た。

ようやくあとひと踏ん張り、といったところだが、牧場に入ってからがまた長い。此処で気を抜いてしまうと、展望台までのラストスパートが果てしなく辛くなる。

その代わり、視界が開けて見えて来る山深い場所の景色は、此処までの試練を越えてきた挑戦者への御褒美だ。

昔の人もこの景色に元気を分けて貰い、先を急いだのだろうか。

誰もいなく、強い風だけが吹く牧場をゆっくりと歩く。

車でちょろっと登ってくるだけの連中には一生涯味わえない心情を今、俺はパティと一緒に感じている。やはり旅は自分の足こそが全てで、そうでない旅を旅と呼ぶべきではない。

幾つ目かのカーブを曲がり、高清水の最奥を目指して歩き続ける。展望台はまだ見えて来ない。