遠野放浪記 2013.05.24.-15 湖がある丘原を巡る冒険・そのよん | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

綾織に降りた際にはまだ高い場所にいた太陽は、今にも山の向こうに沈みそうだ。


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少しずつ影が延び始め、俺の水田巡りも終わりが近い。

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鮮やかな青と緑、そして僅かな紅の中を、いろいろなものを感じながら歩く。

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晩春の遠野に溢れる生命、山の鼓動、背後から這い寄る夜……。

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やがて、水田と遠野街道を隔てる砂子沢川にぶつかった。

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砂子沢川は、遠野三山のひとつである石上山から流れ出る綾織の中心的な河川で、この川が登場してくると其処が何かの境界線であるような気がして、空気も綾織駅とは大きく変わってくる。

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川を渡った向こう側から、先程まで歩いてきた水田地帯を眺めてみる。

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遠野のように、土地と土地を隔てる川が多い街ではよく感じることだが、同じ場所である筈なのに、その内側と外側の印象はこうも違うものか。

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此処からは、遠野街道を日影交差点へ向かいながら、広大な水鏡を外から眺めてみる。

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釜石街道との合流地点がすぐ近くにあるので、際限無く広いように感じられたこの水田地帯も終端が近いことを感じる。

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何事にも終わりはある。道にも土地にも、人が過ごす時間にも……。

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いつか終わりが来るからこそ、其処に至るまでの過程が美しいのだが。

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この先は真っ直ぐ市街地へ向かうつもりでいたのだが、やはり細い畦道の蠱惑的な誘いには抗い難く、歩き易そうな場所を見付けてはパティに待っていて貰い、再び大海の中に分け入ってみたり……。

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それでも、少しずつ交差点に向かうに連れ、綾織に別れを告げなければならない瞬間も刻一刻と迫って来る。

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結局水田巡りに要した時間は、僅か一時間足らずだっただろうか。当て所無く歩いたその一時間足らずが、今日の俺にはこの上ない美しい時間だった。