釜石街道からはだいぶ離れ、山の方に近付いて来た。
向こうにまだ水の中で作業をしている人の姿が見える。
山裾から市街地方面を眺めると、平坦な水田地帯を果てしなく遠くまで見渡せる。本当に広い。
このあたりの畦道は車も入れるくらい広いので、パティと一緒でも水際まで近付くことが出来る。
今度は遠野街道に面する集落が近付いて来た。
このあたりはまだ田植えが済んでおらず、空の雲が綺麗に映り込んでいた。
夕暮れの街道ってどうしてこんなにもノスタルジックな感情を刺激するのだろう。
家に帰る道と、別の街へ向かう道とでまた与えられるものも違うのだろう。
山際の水田をひと通り歩いたところで、もっと遠野街道に近付いてみることにした。
思い起こせば、初めて遠野に辿り着いた夜に千葉家を目指して歩いた道が遠野街道だった。
あの頃は本当に何も知らなかったが……丁度6年が経ち、俺の遠野に対する感情も随分変化してきた。
しかし、まだ歩くべき道は残っているので遠野街道には合流しない。
歩ける道を探しながら、山に近付く。そろそろ水田地帯の終わりが見え始め、太陽はもう稜線の向こうに隠れようとしていた。
綾織駅は既に風景の中に溶けている。東京を出発した半日前が、もう遠い昔のことのように思える。
畦道を縫うように歩き、やがて遠野街道へ繋がる最後の道に出くわした。
無条件に美しいこの情景散策も、そろそろ終わりを迎えようとしている。