矢板駅で突然止まってしまった宇都宮線だが、前を走る列車のパンタグラフに雪が積もり過ぎたせいでパンタグラフを上げることが出来ず、走ることが出来なくなってしまったのが原因らしい。
それならば雪をどかしさえすれば再び走れるようになるわけだから、復旧までにそう時間はかからないと思っていた。しかし、元々が普通に走っている列車も遅延する程の雪である。対応に当たった人たちも不慣れな環境だったのだろう、1時間以上経っても列車が再び走り出す気配は無かった。
真冬の空はみるみるうちに暗くなっていく。定刻通りならば15時過ぎには宇都宮駅に到着できる筈だったが、既に時計は16時を回っている。
昼食も宇都宮駅で摂ろうと考えていたので、何の準備もしていない俺は激しい空腹にも襲われていた。停車中に矢板の街に出て何か仕入れて来ようかとも思ったが、その間に列車が出発しないとも限らないので、結局車内で待ち続けるしかない。
乗客たちも疲労の色が濃く、中には八つ当たり紛いの無茶な要求を車掌にし始める奴もいた(列車を逆走させて那須塩原から新幹線に乗せろって、後ろにもまだ列車がいるんだから無理に決まっているだろ)。
殺伐とした状況の中で、駅前の綺麗なイルミネーションがせめてもの癒しだった。
やがてこの状況に陥ってから2時間が経とうかという頃、ようやく列車のパンタグラフが電線に接触したという知らせが入ってきた。これで件の列車は無事走れる状態になったということだ。
しかし続けて、この天候のせいで宇都宮駅を出発することが出来ない列車がホームを全て占領しており、それが順繰りに捌けるまでは後続の列車も出発することができないということも告げられた。どうやらJRは、今日は最終列車まで走らせることは諦め、今現在走行中の列車が全て終着駅に辿り着いた時点で運行を打ち切る決断をしたらしい。
さらに待つこと数十分、ようやく俺が乗っている列車も矢板駅を出発することが出来るようになった。俺は元々半日近く列車に乗っているので、今更これくらい車内で待たされることも平気だが、乗客たちはもう疲れ果てている。車掌や関係者も懸命に復旧に向けた対応に当たり、疲労の色が濃い。
それでも、乗客たちのために列車を走らせてくれたことに俺は感謝したいと思う。
結局、俺が乗っている列車が、黒磯から宇都宮へ向かう今日最後の列車になった。
這う這うの体で到着した宇都宮駅のホームには、もう走る列車も人もいなく、がらんとしていた。
幸い、新幹線だけはほぼ定刻通りに動いており、しかも在来線の乗客に対する救済措置により特急券を持っていなくても乗れる!とのことだったので、俺も新幹線に乗って帰ることにした。というよりそれしか手段が無いので、普段幾らアンチ新幹線だといっても、今日ばかりはどうしようもない。
次の新幹線までには少々時間があるようだったので、俺はホームの蕎麦屋で遅い昼食をいただいていくことにした。
蕎麦屋には、俺と同じ考えらしい人がふたり。
俺は期間限定で発売されていた鰊蕎麦に、かき揚げをトッピングして貰った。
安い立ち食い蕎麦ながらなかなか美味しく、ボリュームもあった。濃い目の出汁が冷えた身体に染み渡って、こんなときには有り難かった。
ただ……店員がまだ経験浅かったのか?鰊を用意する手付きが明らかにレトルトwせめて客に見えないところでパックを開ければ良いのになぁw
取り敢えず腹は満たされ、もうこれ以上に心配ごとは無くなった。
コンコースに上ると、やはり在来線の電光掲示板全てに「運転終了」の表示。新幹線の改札には、振り替え乗車券を求める長蛇の列が出来ていた。
元々新幹線に乗る予定で特急券を持っていた人にはとばっちりだよなぁ……と申し訳ない気持ちも抱きつつ、俺も新幹線に乗らないと家に帰ることが出来ないので、ちゃっかりタダで改札を通ることにした。
新幹線は一部の例外を除き、基本的に在来線よりも高いところを走っている。ホームからは、すっかり夜になりネオンが輝く宇都宮の街が見下ろせた。
雪はもうほぼ収まっており、今からならば在来線でも大丈夫なんじゃないかという気がした。さっきまでの嵐が嘘のように、街は平和に見えた。
上野駅までは40分強で到着する。思い掛けない長丁場になってしまった俺の旅も、ようやく終わりに向かうことが出来そうだ。