この記事は最初、
「英「フィナンシャル・タイムズ」に香港をよく知るコラムニストが寄稿した「香港は終わった」というタイトルのコラムで、香港社会が震撼している。…本当に香港はもう「終わった」のか」
と始まっている。
記事中では、現在米エール大学で教鞭をとっているスティーブン・ローチ氏がモルガン・スタンレーのアジア地区首席アナリストであった1980年代から見ている香港についての感想?を述べ、それに対して親中の香港の女性議員が噛み付いている。
さて本当の香港の姿はどっち?と言う感じの内容。(香港の議員としてはこの手の評論には噛み付くのが正解)
この記事が正しいかどうか素人の私には何とも言えないが、ここに主観を記録しておこう。
私が最初に香港を訪れたのは1980年代後半。
あの頃の香港は、当時の日本や台湾、韓国には無かった何となくオシャレな雰囲気があり、日本人の私にとっては何だかワクワクする場所だった。今思えば、イギリスの植民地であったことから欧米文化の影響があったのだと思う。
今の様にUNIQLOは無く、当時の香港のGIORDANOやG-2000等のお店でカジュアルな洋服を買うことがとても楽しかったことを思い出す。
当たり前のことだが、今の様な言論統制は無く、みな自由に暮らしているように見えた。
さて、少し前に機会を得て香港に行き、今の香港を体感した。
今は中国の統治下となり、完全にそのオシャレな感じは無くなっていた。
髪型も昔の香港映画に出て来るチョイ役のような長めのスポーツ刈りか、デザインとは呼べない様な、ただ散髪しました的な感じ。ファッションの面で見れば今や日本や台湾の方が圧倒的におしゃれだ。
考えてみれば仕方がない。
中国に返還されて以降、中国の田舎から出て来たようなファッションの人を見ることも多い。
そう言った姿を毎日見ていれば、感覚はどんどんそちらに引っ張られる。
また中国政府は意図的に中国人を香港に住まわせている。観光客も圧倒的に中国人が多い様に感じた。つまり同じ「香港」と言いながら、昔と今の香港はその中身がもう全然違うのだ。
そして言わずと知れた中国政府による「言論統制」。もう香港人は口をつぐんで生きるしかない。
ワーワー大声で主張できるのは中国から渡って来た「新香港人」か中国との商売で利益を得ているポジショントークの人たちによる中国礼賛のみ。
そんな中で、テレビ番組の現地報道にしてもYoutubeにしても「今の現地をレポートします」なんて言ってインタビューしたからって、今の香港が分かるわけが無い。本当のことを話すわけがない。命をかけてまで話す義理などない。もし万一現地の香港人に本当のことを喋らせたとしたら逆にそのインタビュアーには大きな道義的責任が発生するだろう。
知り合いの香港人が語っていた幾つかの印象深かった内容。
外に出て行くほどのお金があるお金持ちはとっとと海外に出て行っている。それができず香港で生活するとした場合、安い物を買うために可能であれば深圳に買い物に行く。結果として、みな香港でお金を使わない。その結果として香港では多くのお店が潰れているそう。
また家族の中に中国人のお嫁さんを貰ったりする人がいれば、例え家族でも正直なことは話せない。密告されて国安法で処分されるかもしれないから。
また職業も「中国語が下手(以前の香港の公用語は広東語と英語)」と言う理由で、いつ中国人に取って代わられるか分からない、とも。
実際、ネイザンロードの人波は昔と比べてだいぶ少ないように感じたし、空き店舗も結構目に付いた。そして街全体は昔のままで、ただ昔のまま古くなっている感じだった。
香港人の立場に立って考えてみれば、こんな香港で将来に希望を見い出せるわけがない。
そして若者ほど未来に希望は持てない。彼らの気持ちを考えれば本当にやるせなかった。
結果としてただただ廃れ行く香港の様子を見ることになった。
私個人としては、とにかく悲しく寂しい気持ちになる旅となった。
最初に引用した記事を書いたスティーブン・ローチ氏もきっとそんな気持ちだったのだろう。